ミセルチカラの磨き方
「ウチは昔からこうだから」が命取りに? 決算書の落とし穴と後継者がまず見るべき数字
ヒーズ株式会社の岩井徹朗です。
「その決算、引き継いで大丈夫ですか?」
「今期の数字、どうされますか?」
決算前の打ち合わせで、顧問税理士からそう聞かれた経験はないでしょうか。
もしあなたが事業を引き継いだ後継者で、経理や財務のことをあまり深く関与せずにやってきたなら、この問いかけにドキッとしたかもしれません。
たとえば、
・できれば赤字は避けたい
・前期より増収増益に見せたい
・在庫を少なく見せたい
そんな従来通りの処理が、なんとなく習慣化していたかもしれません。実際、先代から引き継いだ会社では「長年こうしてきたから」「税理士さんに任せてあるから」と、決算書の中身に疑問を持たずに経営が続いてきたケースが少なくありません。
「数字に強い」って、どういうこと?
上場企業であれば決算は監査法人の厳しいチェックを受けるため、数字を整える余地は少ないですが、中小企業、特にオーナー企業では、税務上のリスクを超えない範囲で柔軟な対応がされることもあります。
たとえば、「赤字を避けたい → 一部の費用を「資産」として計上 → 費用が減る → 黒字に見せる」。このような処理は「粉飾」とまでは言えずとも、「実態」とは異なる場合もあります。
ここで大切なのは、「銀行や税理士が指摘しない=問題がない」ではない、ということです。むしろ、数字に詳しくない後継者ほど「気づかぬまま」過去の処理を引き継いでしまい、実態を把握するまでに時間がかかってしまうのです。
「指摘されない」決算書が一番危ない
銀行も、税理士も、あえて厳しい指摘をしない場合があります。
銀行:「黒字なら保証協会も通りやすいし、まぁいいか」
税理士:「税務署に指摘されない範囲だから大丈夫」
こうして波風立てずに決算が終わったとしても、それは経営者にとって本当にプラスでしょうか?
資金繰りに余裕がある間は目立たないかもしれません。でも、いざ厳しくなった時に
「その売掛金、いつ回収されますか?」
「在庫の内訳を説明してください」
「現金残高が不自然に膨らんでいますが…」
こういった質問が飛んできて、結果として、「帳簿上は黒字でも、実質的には赤字。債務超過です」と判断されてしまうこともあるのです。
「なぜこんな売上が?」その違和感が運命を分ける
私がかつて在籍していたベンチャー企業でも、決算書に載っていた売掛金が半年以上も未回収だったことがありました。調査の結果、それは社長が知り合いの会社に頼んで演出的に作った売上だったことが発覚しました。
結果、最初の資金調達はなんとか通ったものの、資金繰りが厳しくなった後の資金調達では金融機関からNGが出てしまいました。
後継者がすべき「たった一つのこと」
決算の数字は、最終的には経営者の判断がすべてです。「税理士がOKと言ったから」「銀行から指摘されなかったから」では、責任を果たしたことにはなりません。
むしろ、後継者として本当に必要なのは、「実態を正しく把握し、自分の頭で判断する」こと。その数字で、何を意思決定し、どう舵を切るか。それこそが、経営者としての最初の一歩なのです。
私の場合(実例)
ちなみに、私の会社は6月決算です。毎年6月になると、顧問税理士から「決算はどうしますか?」と連絡が来ます。
私はいつも、「実態通り、ありのままで計上してください」とお願いしています。特に打ち合わせはしていません。なぜなら、「経営判断の精度は、正確な事実の把握からしか始まらない」からです。
最後に:数字に向き合うことは、未来に向き合うこと
「数字に弱いから」と苦手意識を持っていたとしても大丈夫。まずは、「今の数字が、何を意味しているのか?」という視点を持つことが、経営者としての土台になります。
あなた自身が「判断の軸」を持てば、税理士とも、銀行とも、同じ目線で対話ができるようになります。そして、その一歩が、次の10年をつくる確かな基盤になるのです。
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