ミセルチカラの磨き方
そのカスハラ対策、会社の信用を落としていませんか?初期対応を間違える組織の盲点

最近は、カスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」への関心が高まっています。
理不尽な要求や暴言から社員を守ることは、経営者にとって重要な責任です。しかし一方で、カスハラ対策という言葉だけが独り歩きし、現場で誤った対応が行われているケースもあります。
たとえば、お客様からの苦情や改善要望に対して、事実確認をする前から「これはカスハラかもしれない」と身構える。あるいは、「謝ってはいけない」という一部の情報だけを切り取って、明らかに会社側に不手際がある場面でも、頑なに非を認めない。
その結果、本来なら現場で収まったはずの問題が、お客様の不信感を招き、本社や経営層を巻き込む大きなトラブルに発展することがあります。
カスハラ対策の目的は、お客様と敵対することではありません。社員を守りながら、事実を冷静に確認し、会社として適切に対応することです。
今回は、誤ったカスハラ対策がなぜ会社の信用を落とすのか、そして、経営者が見直すべき初期対応の盲点について考えます。
カスハラ対策で大切なのは「謝らないこと」ではない
リスク対応では、初期対応が肝心です。
特にクレーム対応やお客様からの苦情対応では、最初に誰が、どのような言葉で、どのような姿勢で対応するかによって、その後の展開が大きく変わります。
最近は「カスハラ対策」という言葉をよく耳にするようになりました。もちろん、実際にモンスターカスタマーのような人が存在するのも事実です。
- 理不尽な要求を繰り返す。
- 大声で社員を威圧する。
- 必要以上に謝罪や金銭補償を求める。
こうしたケースでは、会社として毅然と対応し、社員を守らなければなりません。
一方で、すべての苦情や要望を最初からカスハラのように扱ってしまうと、問題は別の方向にこじれます。
一般的な改善要求であっても、最初に対応した人が間違ったカスハラ対策をしてしまうことで、かえって相手を怒らせ、事態が大きくなることがあるのです。
その代表例が、「絶対に謝らない」という対応です。
「謝ってはいけない」が独り歩きするとクレーム対応はこじれる
たしかに、事実関係が明らかになっていない段階で、安易に「申し訳ありません」「すみませんでした」と全面的に謝罪することにはリスクがあります。
相手によっては、会社が非を認めたと受け止め、さらに過激な要求をしてくる可能性もあります。そのため、クレーム対応の初期対応では、事実確認をしないまま不用意に責任を認める発言をするべきではありません。
しかし、ここで大切なのは、「事実関係が明らかになっていない段階では」という前提です。
事実関係がはっきりして、会社側にミスや不手際があった。それにもかかわらず、「謝らない」という対応だけに固執する。
これでは、お客様の不信感はさらに強くなります。
本来、謝罪とは、会社がすべての責任を無条件に認めるためだけのものではありません。相手に迷惑をかけたこと、不安な思いをさせたこと、対応に不備があったことに対して、誠実な姿勢を示す意味もあります。
にもかかわらず、現場で「カスハラ対策=謝らない」と単純化されてしまうと、必要な謝罪まで拒む対応になってしまいます。その結果、会社を守るはずのカスハラ対策が、逆に会社の信用を落とす原因になるのです。
初期対応の失敗が本社を巻き込む大きなトラブルに発展する
ある経営者のAさんは、最近このような事例に遭遇しました。
ある取引先との間でトラブルがあり、問題解決のために、現場を管轄する上司と面談することになったのです。
本来であれば、現場が自分たちのできていなかった事項を素直に認め、今後の改善策を打ち出せば済む話でした。ところが、最初に対応した現場のトップは、「自分たちは間違ったことをしていない」と強硬に主張しました。
そのため、Aさんは「この人とこれ以上話しても、問題は解決しない」と判断します。そこで、事実関係を整理した文書を本社に送り、改善を求めることにしました。
その後、本社の担当者が事実関係を調査したところ、現場側にいくつかの問題点があったことが明らかになりました。結果として、現場を管轄する部署の上司が改善事項を取りまとめ、Aさんに謝罪することになったのです。
つまり、最初の現場対応で素直に事実確認をし、必要な改善を示していれば、ここまで大きな話にはならなかった可能性があります。初期対応を間違えたことで、本社を巻き込む大ごとになってしまったのです。
会社が指導していなくても、社員は誤った対応をする
謝罪の場で、Aさんは本社の担当者にこう質問しました。
「貴社では、カスハラ対策として、お客様から苦情を受けた際に、『絶対に謝ってはいけない』と指導されているのですか?」
すると、本社の担当者からは、「そのような指導はしておりません」という回答がありました。
ここに、経営者が注意すべき大きなポイントがあります。
会社が正式にそのような指導をしていなくても、社員が世の中に溢れている情報の一部だけを切り取って、間違った対応をする可能性があるということです。
今は、インターネットやニュース、SNSなどを通じて、さまざまな言葉や考え方が広がります。
「カスハラには毅然と対応すべき」
「お客様だからといって何でも受け入れる必要はない」
「安易に謝罪してはいけない」
これらは、文脈によっては正しい考え方です。しかし、その一部だけを切り取ってしまうと、現場ではまったく違う対応に変わってしまいます。
「謝ってはいけない」
「お客様の言い分を聞きすぎてはいけない」
「クレームには強く出るべきだ」
このように誤解されると、本来のカスハラ対策とは違う方向に進んでしまいます。
本来のカスハラ対策は、お客様と敵対することではない
カスハラ対策というと、過剰な要求をしてくるクレイマーから社員や会社を守ることに主眼が置かれます。
もちろん、それは非常に重要です。社員が理不尽な言動にさらされ続ける状態を放置すれば、心身の負担は大きくなり、離職やメンタル不調につながる可能性もあります。経営者は、社員を守る責任があります。
しかし、カスハラ対策の目的は、お客様と敵対関係をつくることではありません。
本来は、
- お客様の正当な要望には誠実に向き合う。
- 理不尽な要求には毅然と対応する。
- 事実関係を冷静に確認する。
- 社員が一人で抱え込まない仕組みをつくる。
このバランスが重要です。
ところが、現場が「これはカスハラかもしれない」と最初から身構えてしまうと、お客様の困りごとを正しく聞き取れなくなります。その結果、本来はカスハラではないにもかかわらず、初期対応を間違えたことで問題が深刻化するのです。
クレーム対応では「相手が何に困っているか」を聞くことが出発点
苦情を受け付けた段階で大切なのは、最初から相手をクレーマー扱いしないことです。
まずは、「お客様はどのようなことで困って、連絡してきたのか」を丁寧に確認する必要があります。
- 何が起きたのか。
- いつ起きたのか。
- 誰が対応したのか。
- 会社側に不備はなかったのか。
- 相手は何を求めているのか。
これらを冷静に確認した上で、会社としてどのように対応するのが適切かを判断します。
ここで重要なのは、相手の言い分をすべて受け入れることではありません。また、最初から会社を守るために反論することでもありません。
まずは事実確認です。事実を確認しないまま謝るのも危険です。一方で、事実を確認しないまま拒絶するのも危険です。
経営者が整えるべきなのは、どちらか一方に偏った対応ではなく、事実に基づいて判断できる初期対応の仕組みです。
「クレーム」という言葉の使い方にも注意が必要
前述のAさんの話では、対応した本社の担当者から、印象的な発言があったそうです。
「私はクレームという言葉を使わないようにしています」
この言葉には、大切な意味があります。
「クレーム」という言葉を使った瞬間、現場の意識が防御的になることがあります。
もちろん、実際にはクレームと表現せざるを得ないケースもあります。しかし、すべてを「クレーム」と呼んでしまうと、相手の話を聞く前から、社員の中に「対応しなければならない厄介な問題」という意識が生まれます。
- 本来は、要望かもしれない。
- 改善提案かもしれない。
- 会社側の不備を知らせてくれている重要な情報かもしれない。
言葉の使い方一つで、現場の受け止め方は変わります。
だからこそ、経営者は「カスハラ」「クレーム」「謝罪」といった言葉を、社内でどのように使うのかを慎重に設計する必要があります。
世の中の情報をそのまま社内対応に持ち込む危険性
世の中には、いろいろな言葉が飛び交っています。
- カスハラ対策
- クレーマー対応
- 謝罪リスク
- 社員を守る経営
- 毅然とした対応
どれも大切なテーマです。しかし、これらの言葉は、文脈によって意味合いが変わります。また、報道やインターネットでは、その一面だけが強調されることもあります。
特にニュースになりやすいのは、「お客さんからこんなにひどい対応をされて、会社が大いに困った」という事例です。一方で、「初期対応がうまくいき、最終的には何事もなく収まった」という事例は、あまり話題になりません。
そのため、現場の社員が目にする情報は、どうしても極端なケースに偏りがちです。
結果として、
- 「お客様からの苦情は危険だ」
- 「謝ったら負けだ」
- 「会社を守るには強く出るべきだ」
という短絡的な理解につながる可能性があります。
経営者は、この情報の偏りを前提にして、社内教育を考える必要があります。
経営者が見直すべきカスハラ対策と社員教育
真のカスハラ対策は、マニュアルを作るだけでは不十分です。なぜなら、現場では言葉が簡略化され、意味が変わり、いつの間にか本来の目的からズレることがあるからです。
経営者が見直すべきポイントは、次の3つです。
1つ目は、カスハラの定義を社内で明確にすることです。
何がカスハラにあたり、何が通常の要望や苦情なのか。
ここが曖昧だと、現場は自分の感覚で判断するしかありません。
2つ目は、初期対応の流れを具体的に決めることです。
誰が話を聞くのか。
どこまで現場で対応するのか。
どの段階で上司や本部に相談するのか。
これを決めておかなければ、対応する社員の力量に任されてしまいます。
3つ目は、「謝る」「謝らない」の前に、事実確認を徹底することです。
謝罪の有無だけに注目すると、判断を誤ります。
大切なのは、会社側にどのような事実があり、どのような対応が適切なのかを冷静に見極めることです。
社員を守ることと、お客様に誠実に向き合うことは、決して矛盾しません。むしろ、その両方を成立させるために、経営者はカスハラ対策を正しく設計する必要があります。
誤ったカスハラ対策を防ぐには、社内で真意を伝え切ること
カスハラ対策は、今後ますます重要になります。しかし、その真意が社内に正しく伝わっていなければ、対策そのものが新たなリスクになります。
社員を守るための対応が、お客様を敵視する対応に変わる。
会社を守るための姿勢が、会社の非を認めない姿勢に変わる。
毅然とした対応が、ただの強硬な対応に変わる。
こうしたズレは、どの会社でも起こり得ます。だからこそ、経営者は「カスハラには毅然と対応しよう」と言うだけでは足りません。
- どのような場合に毅然と対応するのか。
- どのような場合には謝罪や改善が必要なのか。
- 現場で判断が難しい場合、誰に相談するのか。
- お客様の話をどこまで聞き、どこから線を引くのか。
ここまで具体的に伝える必要があります。
言葉は、社内に入った瞬間に解釈されます。そして、その解釈がズレると、現場の行動もズレます。カスハラ対策も同じです。
大切なのは、言葉を掲げることではありません。その言葉の真意が、現場の行動に反映されるところまで設計することです。
あなたの会社では、誤ったカスハラ対策が浸透していないでしょうか。
社員を守るための対応が、会社の信用を落とす対応になっていないでしょうか。
カスハラ対策を進める今だからこそ、経営者は初期対応のあり方と社内教育を見直す必要があります。
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謝罪を禁じることが問題なのではない。事実確認を怠ることが問題。経営者の一言が現場でどう歪むかを前提に、指示は設計されなければならない。
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