知恵の和ノート
「謝るな」が会社を壊す?カスハラ対策で起きている“静かな失敗”の正体(第632話)
カスハラ対策で起きている静かな失敗の正体

謝罪を禁じることが問題なのではない。事実確認を怠ることが問題。経営者の一言が現場でどう歪むかを前提に、指示は設計されなければならない。
「謝るな」と指示していませんか?
社員を守るため。
理不尽なクレームから会社を守るため。
その判断自体は、間違っていません。
しかし、その一言が、現場で別の意味に変換されているとしたらどうでしょうか。
- 事実確認をせずに「ウチは悪くない」と主張する
- お客様の声を「クレーム」として切り捨てる
- 結果として、問題が大きくなってから発覚する
実はこれ、すべて「すぐに謝るな」という指示から起きています。
カスハラ対策のはずが、気づかないうちに「組織の思考停止」を生んでいる。
本記事では、クレーム対応の現場で起きている「静かな失敗の構造」と、その防ぎ方を解説します。
カスハラ対策で増えている「謝るな」という指示の落とし穴
近年、カスハラ対策の一環として「安易に謝罪するな」という指示を出す企業が増えています。
背景にあるのは、一部のモンスタークレイマーの存在です。
会社が一度謝罪したことを材料に、過剰な要求へとエスカレートするケースも確かにあります。その意味で、社員を守るために「すぐに謝るな」と伝えること自体は合理的です。
しかし問題は、その言葉が現場でどう解釈されるかです。
「謝るな」が現場で引き起こす3つの誤解
「謝るな」という指示は、現場で次のように変換されます。
- 謝ってはいけない → 事実確認もしない
- 会社は正しい → 相手の話を聞かない
- クレーム対応 → 防御すべきもの
本来は「安易に非を認めるな」という意味だったはずが、いつの間にか「自分たちは間違っていない」という前提にすり替わる。
この瞬間、組織の思考は止まります。
クレーム対応の本質は「謝罪」ではなく「事実確認」である
クレーム対応において最も重要なのは、謝るかどうかではありません。
事実を正しく把握することです。
お客様の認識が誤っている場合もあれば、自社に落ち度がある場合もあります。
いずれにしても、事実確認をしない限り、問題は解決しません。また、マニュアル通りに対応していたとしても、トラブルが起きた時点で、そのマニュアルには改善余地があります。
事実確認をせずに「ウチは正しい」と主張することは、問題の再発を許すことと同義です。
実例:「ウチは間違っていません」が招いた問題
先日、ある企業とのやり取りの中で、事実確認を進めようとしたところ、先方は一貫して「ウチは間違っていません」という主張を繰り返しました。
違和感を覚えたため、その事業を管轄する自治体に確認したところ、結果として、あるコンプライアンス違反が判明しました。
問題そのもの以上に感じたのは、事実を見ようとしない組織の姿勢です。
対応の初動で事実確認をしていれば、ここまで問題は大きくならなかったはずです。
なぜ組織は「正しさ」に固執してしまうのか
人は本能的に、自分の正しさを守ろうとします。
特に組織においては、
- マニュアル通りにやった
- ルールを守っていた
という事実があるほど、「自分たちは間違っていない」と考えやすくなります。
しかし、マニュアルは万能ではありません。また、文化や価値観も判断に影響します。
例えば海外では、「謝る=全面的に非を認める」と受け取られる文化もあります。そのため、安易な謝罪が避けられることもありますが、それが過剰になると関係性の悪化を招きます。
重要なのは、謝るかどうかではなく、どう向き合うかです。
経営者が決めるべきは「謝る・謝らない」ではない
現場に必要なのは、単純な禁止命令ではありません。
必要なのは、判断基準です。
- まず事実確認をする
- 謝罪と責任の認定を分けて考える
- 相手の意図(確認なのか苦情なのか)を見極める
こうした基準が共有されて初めて、現場は適切に動けるようになります。
「指示は必ず歪む」前提で設計せよ
経営者の言葉は、必ず現場で再解釈されます。「すぐに謝るな」という言葉も、そのままの意味で伝わることはほとんどありません。
だからこそ、言いっぱなしではなく、運用まで設計することが重要です。
現場でどう使われるかまで考えてこそ、指示は初めて意味を持ちます。
まとめ|クレーム対応で会社の本質が問われる
「謝るな」という指示は、間違いではありません。しかし、それだけでは不十分です。
- 事実確認を起点にすること
- 判断基準を共有すること
- 指示がどう運用されるかまで設計すること
これらが揃って初めて、クレーム対応は会社の成長につながります。
社長の一言で、組織の動きは大きく変わる。だからこそ、言葉の裏にある構造まで設計することが求められているのです。
★関連する記事は「経営者の言葉は誤解されている」

経営者の言葉は、そのままでは伝わらない。「できることに集中」は、現状維持の免罪符にもなる。だからこそ、「やろうと思えばできること」まで定義し、共有せよ。
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