ミセルチカラの磨き方

2026/10/02

社員評価を社長の印象で決めていませんか?カスハラ対策に学ぶ「複数の判断軸」

カテゴリー :マネジメント

カスハラ対策義務化から考える|社員評価で「1つの基準」に頼ってはいけない理由

2026年10月から、企業にはカスタマーハラスメント、いわゆる「カスハラ」への対策が求められるようになりました。

カスハラに当たるかどうかを判断する際には、単に「クレームを言われた」という一つの事実だけを見るのではなく、言動の内容や、その手段・態様など、複数の要素を踏まえて考える必要があります。

 

実は、この「複数の判断軸を持つ」という考え方は、中小企業の社員評価にも通じます。

「仕事が遅い」「ミスが多い」「積極性がない」など、社長が抱いた一つの印象だけで社員を評価してしまうと、本来持っている強みや能力を見落としてしまうかもしれません。

人手不足が続く今だからこそ、社員を一面的に評価するのではなく、正確性、スピード、期限、仕事の内容など、複数の基準から見ることが重要です。

 

今回は、カスハラ対策における判断の考え方をヒントに、社員の力を活かすために中小企業経営者が持っておきたい「評価の複数軸」について考えます。

 

カスハラかどうかは「一つの基準」だけでは判断できない

カスタマーハラスメント対策を考えるうえで難しいのが、「どこからがカスハラなのか」という線引きです。

基本的には、

  1. 言動の内容
  2. 手段や態様

といった複数の観点から判断する必要があります。

 

正当なお申し出までカスハラ扱いしてはいけない

例えば、飲食店で提供された料理に異物が入っていたとします。

お客様が、「料理に異物が入っていました」と冷静に伝えただけであれば、それは通常の申し出であり、カスハラとは言えません。

 

一方で、そのことを理由に長時間にわたって店員を拘束したり、大声で怒鳴ったりすれば、要求の伝え方や態度によってはカスハラに該当する可能性があります。

つまり、「クレームを言ったかどうか」だけでは判断できないということです。

 

冷静な言い方でも要求内容によっては問題になる

反対に、言い方が冷静だからといって、必ずしも問題がないとは限りません。

例えば、近所で工事をしている会社に対して、「工事中は一切音を出さないでください」と冷静に求めたとします。

工事という性質上、ある程度の音が出ることは避けられません。そのため、言い方自体は穏やかであっても、要求内容が社会通念上許容される範囲を超えていれば、カスハラに当たる可能性があります。

 

ここでも、

「何を要求しているのか」

「どのように要求しているのか」

という複数の判断軸が必要になります。

 

中小企業の社員評価にも「複数の判断軸」が必要

この考え方は、社員を評価するときにも当てはまります。

例えば、社内でこんな評価をすることはないでしょうか。

「彼は仕事は正確だけれど、遅い」

「彼女は仕事は早いけれど、間違いが多い」

 

この場合も、社員の仕事ぶりを、

  1. 正確性
  2. スピード

という少なくとも二つの基準で見ています。

 

もちろん理想は、「正確で、なおかつ早い」ことです。しかし、すべての社員に最初からそれを求めるのは現実的ではありません。

社員それぞれに得意不得意があり、仕事の性質によっても、優先すべき基準は変わるからです。

 

仕事によって「正確性」と「スピード」の優先順位は変わる

社員評価で注意したいのは、どんな仕事でも同じ基準で評価しないことです。

 

月次決算ではスピードを優先する意味がある

例えば、月次決算を考えてみます。

月次決算の目的の一つは、前月の業績をできるだけ早く把握し、その結果を今月以降の経営判断に活かすことです。そのため、1円単位まで完全に数字を合わせることに時間をかけるよりも、ある程度の精度で早く数字を把握することの方が重要なケースがあります。

数字が100%固まるまで待っていた結果、前月の業績が分かるのが翌々月になってしまっては、経営判断に使いにくくなります。

 

本決算では正確性の重要度が高くなる

一方、本決算の場合は事情が違います。

期末から一定期間をかけて決算を確定させることができる一方、計上漏れなどがあれば、税務上の問題につながる可能性があります。

そのため、本決算では月次決算以上に数字の正確性が重要になります。

 

同じ「決算」という仕事でも、

  • 月次決算ではスピード
  • 本決算では正確性

というように、求められる優先順位が変わるわけです。

社員を評価するときにも、「早いか遅いか」「正確か不正確か」だけではなく、「その仕事では何を優先すべきなのか」まで考える必要があります。

 

「仕事が遅い」という評価も基準を明確にする

社員評価でもう一つ問題になりやすいのが、「仕事が遅い」という評価です。

 

例えば、同じ仕事を二人の社員に依頼したとします。

  • Aさん:いつも締め切りの1週間前には終わっている
  • Bさん:いつも締め切りギリギリに終わる

 

この場合、社長から見ると、

「Aさんは仕事が早い」

「Bさんは仕事が遅い」

という印象を持つかもしれません。

しかし、「締め切りを守る」という基準だけで見れば、AさんもBさんも同じです。どちらも約束した期限までに仕事を終えています。

 

社長の感覚ではなく「期待する基準」を伝える

もちろん、経営者としてはBさんの仕事ぶりに不安を感じることもあるでしょう。締め切りギリギリに提出されると、万一ミスがあった場合に修正する時間がありません。

それなら、「何か問題があった場合に修正する時間を確保したいので、原則として締め切りの3日前までに提出してください」と基準を伝えればよいのです。

このように明確なルールを示したうえで、その基準を守れているかどうかを評価するのであれば、社員も納得しやすくなります。

 

反対に、何も基準を伝えていないにもかかわらず、

「Bさんはいつもギリギリだから仕事が遅い」

「だから評価を下げる」

となれば、社員からすると納得できない可能性があります。

 

社長の印象だけで社員評価を決めるリスク

特に中小企業では、社員評価の仕組みが十分に整っていない会社も少なくありません。

その場合、

「頑張っているように見える」

「仕事が遅いように感じる」

「積極性がない」

といった社長の印象が、そのまま社員評価につながることがあります。

 

もちろん、社員数の少ない中小企業では、社長自身が社員の仕事ぶりをよく見ているという強みがあります。しかし、「よく見ていること」と「正しく評価できていること」は同じではありません。

一つの印象だけで社員を判断してしまうと、本当は能力があるのに、その力を十分に発揮できていない社員の芽を摘んでしまう恐れがあります。

 

人手不足だからこそ「社員の良いところを伸ばす評価」へ

昨今は、多くの中小企業が人手不足に悩んでいます。

仕事が正確で早く、コミュニケーション能力にも優れ、自ら考えて行動できる。そんな理想的な社員を、必要なタイミングですぐに採用できる会社は多くありません。

だからこそ、「足りないところを探す」だけの社員評価から、「良いところを見つけて伸ばす」という評価へ変えていくことが大切です。

 

例えば、

  • 正確性
  • スピード
  • 期限を守る力
  • 改善する力
  • 周囲との連携
  • お客様への対応
  • 報告や相談のタイミング

など、仕事をいくつかの判断軸に分けて見るだけでも、社員の見え方は変わります。

 

「仕事が遅い社員」ではなく、「正確性は高いが、スピードに改善余地がある社員」と捉えれば、育成方法も変わります。

弱点だけを理由に評価を下げるのではなく、強みを活かしながら不足している部分を少しずつ改善していく。その方が、会社にとっても社員にとっても建設的です。

 

経営判断も社員評価も「複数の基準」で考える

カスハラ対策では、一つの言動だけを切り取って判断するのではなく、その内容や手段、態様など複数の要素を踏まえて判断することが求められます。

社員評価も同じです。

 

「仕事が遅い」

「ミスが多い」

「積極性がない」

といった一つの印象だけで判断すると、社員の本当の強みを見落とす可能性があります。

 

会社として、

「何を評価するのか」

「どの水準を求めるのか」

「その仕事では何を優先するのか」

を明確にする。

そのうえで複数の判断軸から社員を見ることが、人材を活かす第一歩です。

 

社員の欠点を探して評価するのではなく、良いところは伸ばし、足りないところは少しずつ改善していく。

採用が難しい時代だからこそ、今いる社員の力を最大限に引き出せる評価の仕組みを整えることが、中小企業の持続的な成長につながるのではないでしょうか。


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