ミセルチカラの磨き方
謝罪は負けではない!顧客との信頼関係を守る社長のコミュニケーション術

会社のミスや不手際によって、お客様からクレームを受けたとき、社長はどのように対応しているでしょうか。
「簡単に謝罪すると、こちらの非を全面的に認めることになる」「理不尽な要求につながるのではないか」と考え、謝罪をためらうケースもあります。
しかし、会社側に問題があるにもかかわらず、謝罪を避けることで、かえって顧客との信頼関係が損なわれ、問題が大きくなることも少なくありません。
中小企業の経営者にとって大切なのは、謝罪するかしないかではなく、「誰に、何を、どのように伝えるか」を見極めること。
謝罪は決して負けを認める行為ではありません。相手との関係を修復し、信頼を取り戻すためのコミュニケーションです。
今回は、顧客対応でトラブルをこじらせないために、社長が押さえておきたい謝罪の考え方と伝え方について考えます。
企業の謝罪対応で本当に大切なこととは?
謝罪の形式ばかりが注目される日本社会
相次ぐ企業の不祥事や情報漏洩の問題を受けて、会社が謝罪する場面を目にする機会が増えています。その中で感じるのは、日本人は「謝罪」に対して厳しいということです。
武士が活躍していた時代には、切腹という形で責任を取ることがありました。また、最近では減っているものの、何か問題を起こした際に、坊主頭にして反省の姿勢を示すケースもあります。
このように、目に見える形で反省や謝罪の意思を示す文化があるためか、企業の謝罪会見でも、お辞儀の角度や頭を下げている時間などが批判の対象になることがあります。
もちろん、謝罪する際の態度や姿勢は大切です。しかし、形式ばかりに目を向けてしまうと、謝罪の本来の目的を見失いかねません。
謝罪で重要なのは、どれだけ深く頭を下げたかではなく、相手に何を伝え、その後どう対応するかです。
謝罪の基本は「誰に・何を・どのように」の3つ
企業が謝罪する際、最初に考えるべきことは次の3つです。
- 誰に謝罪するのか
- 何を伝えるのか
- どのように伝えるのか
例えば、会社がお客様に迷惑をかけた場合、謝罪すべき相手は直接被害を受けたお客様だけとは限りません。株主、取引先、社員など、直接的・間接的に影響を受ける関係者もいます。
さらに、SNSが普及した現在では、問題に直接関係のない人からも「あの謝罪では誠意が伝わらない」「会社としての対応が不十分だ」といった批判が寄せられることがあります。
そのため、企業側は多方面への配慮を求められます。しかし、すべての批判に対応しようとするあまり、本来最も大切にすべき相手への対応がおろそかになっては本末転倒です。
まずは「誰に対して、何を一番伝えなければならないのか」を明確にすること。
それが適切な謝罪対応の出発点になります。
謝罪が遅れる会社ほど問題が大きくなる理由
謝罪への負担が対応の遅れを招く
企業の不祥事が発覚した際、本来であれば早急に謝罪した方がよいケースでも、対応が遅れることがあります。その背景には、謝罪すること自体への心理的な負担があります。
謝罪すれば批判されるかもしれない。
不用意な発言が新たな問題を生むかもしれない。
会社の責任を認めたことになり、さらに厳しい要求を受けるかもしれない。
こうした懸念が重なると、
謝罪への負担が大きくなる
↓
なかなか謝罪に踏み切れない
↓
対応が遅れたことで、さらに批判される
という悪循環に陥ります。
大企業の場合、関係者が多く、謝罪会見を開くにしてもさまざまな調整や準備が必要です。マスコミから厳しい質問を受けることも想定しなければならず、対応が慎重になる事情も理解できます。
しかし、謝罪の準備に時間をかけることと、相手への対応を先延ばしにすることは別の問題です。事実関係がすべて判明していなくても、現時点で把握している状況や、迷惑をかけていることへのお詫びを伝えることはできます。
初期対応の遅れが、問題そのもの以上に会社への不信感を高めることもあるのです。
中小企業は社長の迅速な対応が信頼回復につながる
一方、中小企業の場合はどうでしょうか。
大企業ほど関係者が多くないため、よほど大きな事故でもない限り、謝罪会見を開くことは稀です。
むしろ、社長が直接お客様のところへ出向き、事情を説明して謝罪することで、問題が円満に収まるケースもあります。昔ながらの言い方をすれば、社長が菓子折りを持って謝りに行くという対応です。
もちろん、菓子折りを持参すれば問題が解決するわけではありません。大切なのは、社長自らが相手と向き合い、誠意を持って話をする姿勢です。
中小企業には、大企業ほど複雑な意思決定の手続きを必要とせず、経営者の判断で素早く対応できる強みがあります。問題が起きたときこそ、その強みを生かすべきではないでしょうか。
クレーム対応で謝罪を拒むことが逆効果になる理由
カスハラ対策と適切な謝罪は両立できる
最近は、カスタマーハラスメント、いわゆるカスハラへの対策が注目されています。理不尽な要求や暴言などから社員を守ることは、会社として当然取り組むべき課題です。
しかし、その一方で、会社側に問題があるにもかかわらず、一切謝罪しないという対応も見受けられます。その結果、かえって相手の怒りを増幅させ、問題をエスカレートさせてしまうことがあります。
もちろん、理不尽な要求に対して安易に謝罪したり、相手の言い分をすべて受け入れたりする必要はありません。ただし、会社のミスや間違い、対応体制の不備などによって相手に迷惑をかけたのであれば、その点についてはきちんと謝罪すべきです。
カスハラ対策とは、社員を守るために不当な要求へ適切に対応することであり、会社側の問題について謝罪しないことではありません。
この違いを理解しておく必要があります。
謝罪するかどうかで相手の受け取り方は大きく変わる
例えば、会社側の不手際によってお客様に迷惑をかけたとします。
そのとき、「当社には問題ありません」と自社の正当性ばかりを主張するのか。それとも、「ご迷惑をおかけしたことについては、申し訳ありません」と相手の立場に配慮して対応するのか。
両者では、相手の受け取り方が大きく変わります。
もちろん、謝罪したからといって、相手が必ず納得するとは限りません。
しかし、相手が怒っている理由を理解しようとせず、一方的に自社の主張を繰り返していては、解決できる問題も解決できなくなります。
謝罪は単に「申し訳ありません」と言うことではありません。相手との対話を始めるための、大切なコミュニケーションなのです。
顧客との信頼関係を守る謝罪の3つのポイント
では、実際にお客様からクレームを受けた場合、どのように対応すればよいのでしょうか。
ここでも重要になるのが、「誰に・何を・どのように」という3つの視点です。
誰に伝えるか:目の前のお客様と向き合う
まず、「誰に」については明確です。
目の前で怒っているお客様です。
企業全体の評判やSNSでの反応も気になるかもしれません。しかし、直接迷惑を受けているお客様がいるのであれば、まずはその人と向き合う必要があります。
相手が何を感じ、何に困っているのか。
それを理解しようとする姿勢が、信頼回復への第一歩になります。
何を伝えるか:相手の怒りの理由と要望を把握する
次に、「何を」伝えるかです。
ここで重要なのは、相手が何に対して怒っているのかを正しく把握することです。
例えば、
・商品やサービスそのものに不満があるのか
・担当者の説明や態度に怒っているのか
・問題発生後の対応に不信感を抱いているのか
によって、伝えるべき内容は変わります。
また、相手が求めていることも確認する必要があります。
商品の交換や返金を求めているのか。
問題が起きた理由について説明してほしいのか。
それとも、今後同じことが起きないよう改善してほしいのか。
相手の要望を正しく理解しないまま、形式的な謝罪を繰り返しても、問題の解決にはつながりません。
どのように伝えるか:冷静さと敬意を忘れない
最後に、「どのように」伝えるかです。
ここで意識したいのは、次の3点です。
- 杓子定規な対応をしない
- 最初から相手をクレーマーと決めつけない
- 相手に対して一定の敬意を持って接する
相手が感情的になっているからといって、こちらまで感情的になれば、話はますますこじれます。一方で、相手の要求を何でも受け入れる必要もありません。
冷静に対応し、聞くべきことは聞き、言うべきことは言う。そのうえで、会社としてできることと、できないことを明確に伝えることが大切です。
謝罪とは、相手の言いなりになることではなく、お互いが納得できる解決策を探るためのコミュニケーションです。
謝罪は負けではなく、信頼関係を修復するための知恵
先日、ある取引で、先方の対応に筋が通らないと感じる出来事がありました。
そこで、担当者に電話をして、「会社として、そちらの主張も分かります。ただ、こちらとしては、きちんと一本筋を通したいのです」と、その理由も含めて伝えました。
こちらの考えを一方的に押しつけるのではなく、先方の立場にも一定の理解を示しながら、自分が何を大切にしているのかを説明したのです。幸い、先方も理解のある人だったので、大きな揉めごとにはならず、話は丸く収まりました。
今回の事例は、厳密には謝罪そのものではありません。しかし、相手の立場を尊重しながら、自分の考えを伝えるという点では、謝罪にも通じるものがあります。
私は、謝罪とは「人と人との関係が丸く収まるための知恵」だと考えています。
相手に頭を下げたら負け。
謝罪したら、こちらが不利になる。
そんな発想にとらわれていると、本来解決できる問題まで難しくなってしまいます。
もちろん、話の通じない相手もいますし、理不尽な要求には毅然と対応する必要があります。しかし、少なくとも話の通じる相手であれば、「自分は相手に何を一番伝えたいのか」を考えることで、選ぶ言葉も伝え方も変わってきます。
中小企業の社長にとって、顧客との信頼関係は大切な経営資産です。会社のミスや不手際が起きたとき、それを守れるかどうかは、社長の対応次第という面もあります。
謝罪は負けではありません。むしろ、相手との関係を修復し、信頼を取り戻すための前向きな行動。
何か問題が起きたときこそ、「誰に・何を・どのように伝えるか」を考え、誠意あるコミュニケーションを心がけたいものです。
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