ミセルチカラの磨き方
担当者が代わると仕事の質が落ちる会社|「ちゃんと」の基準を見直す経営改善

「前任者の時はちゃんとできていたのに、担当者が代わった途端、仕事の質が落ちてしまった」
そんな経験をしたことがある経営者も多いのではないでしょうか。
仕事の引き継ぎがうまくいかなかったのか、それとも後任者の能力不足なのか。原因を社員個人の問題として捉えてしまいがちですが、実は会社の仕組みや仕事の評価基準に問題が隠れていることもあります。
特に注意したいのが、経営者と社員の間にある「ちゃんと仕事をする」という認識のズレです。
担当者が代わっても業務品質を維持し、社員が納得して働ける会社にするには、何を見直せばよいのでしょうか。
今回は、仕事の属人化や期待のズレが生まれる原因を整理し、仕事の品質を高めるために経営者が取り組むべきことを考えます。
担当者が代わると仕事の質が落ちるのはなぜか?
「Aさんの時はちゃんとできていたのに」
担当者がAさんからBさんに代わった途端、これまで問題なく進んでいた仕事がうまくいかなくなる。そんな時、経営者はつい「Bさんは仕事ができない」と考えてしまいがちです。
しかし、仕事の質が落ちる原因は、必ずしも後任者の能力不足とは限りません。
考えられる原因としては、次のようなものがあります。
- 前任者のAさんが優秀だった
- 後任者のBさんの実務能力が不足している
- 仕事の引き継ぎが十分にできていなかった
- 会社の仕組みや業務の進め方に問題がある
原因が異なれば、当然、必要な対策も変わります。
そこで、まず確認したいのが、経営者の考える「ちゃんと仕事ができている」とは、具体的にどういう状態なのかということです。
「指示した仕事」と「指示していない仕事」を分けて考える
仕事の質を検証する際には、次の二つを分けて考える必要があります。
- 指示した仕事ができているか、いないか
- 指示していない仕事もやってくれるか、やらないか
この二つは似ているようで、実は大きく異なります。
前者は、主に業務を遂行する能力や会社の仕組みに関する問題です。一方、後者は、経営者と社員の間にある期待のズレや評価基準に関する問題です。
この違いを曖昧にしたまま社員を評価すると、根本的な問題が解決されないばかりか、社員の不満を高めることにもつながります。
仕事の質は社員の能力と会社の仕組みで決まる
優秀な社員がいても業務品質が安定するとは限らない
指示した仕事ができている場合、その背景には社員の実務能力と会社の仕組みがあります。
例えば、次のような組み合わせが考えられます。
- 会社の仕組みが整っている × 社員の実務能力が高い
- 会社の仕組みが整っていない × 社員の実務能力が高い
- 会社の仕組みが整っている × 社員の実務能力が低い
1の場合は、会社の仕組みと社員の能力がうまくかみ合っている状態です。
2の場合は、仕組みが不十分でも、優秀な社員が自分の経験や判断で仕事を進めています。
3の場合は、社員の能力に多少の不足があっても、会社の仕組みがそれを補っている状態です。ただし、求められる仕事の水準によっては、仕組みだけでは補えないこともあります。
問題になりやすいのは、2のケースです。
Aさんが優秀だったため、会社の仕組みに不備があっても問題が表面化していなかった。ところが、Bさんに担当が代わった途端、これまで見えなかった問題が一気に表面化することがあります。
つまり、Aさんが優秀だったからこそ、会社の仕組みの弱点が隠れていた可能性があるのです。
後任者の能力不足と決めつける前に確認したいこと
一方、会社の仕組みがある程度整っていても、担当者が代わることで仕事の質が落ちるケースがあります。
例えば、Aさんには同じ業界で働いた経験があり、Bさんにはその経験がない場合です。
Aさんにとっては当たり前の専門用語や業界特有の商習慣でも、Bさんにとっては初めて接するものかもしれません。
この場合、AさんとBさんの基本的な実務能力に大きな差がなくても、業界経験の違いによって仕事のパフォーマンスに差が生まれます。
それを単純に「Bさんは能力が低い」と評価するのは早計です。
会社として考えるべきことは、ほかにもあります。
- 採用する際に必要な経験や能力を明確にする
- 仕事を任せる際の条件や要求水準を見直す
- 業界未経験者でも理解できる業務手順を整える
- 仕事に必要な知識を習得できる環境をつくる
担当者が代わった時に仕事の質が落ちるのであれば、それは社員個人の問題だけでなく、会社の仕組みを改善する機会でもあります。
「言わなくてもやってほしい」が社員評価のズレを生む
気がきく社員の行動は必ずしも引き継がれない
もう一つ、経営者が注意したいのが、指示していない仕事への対応です。
経営者からすると、こちらが指示しなくても意図を汲んで、「これもやっておきました」と一歩先回りして仕事を進めてくれる社員は、非常にありがたい存在です。
いわゆる「気がきく社員」です。阿吽の呼吸で仕事を進められる社員は、会社にとって貴重な戦力でしょう。
しかし、前任者のAさんがそのような社員だったからといって、後任者のBさんにも最初から同じ行動を求めるのは期待しすぎかもしれません。なぜなら、Aさんにとっては「やって当たり前のこと」でも、Bさんにとっては「指示されていない仕事」だからです。
さらに、Aさん自身が当たり前だと思っていた行動ほど、仕事の引き継ぎでも説明されない可能性があります。
結果として、社長が期待する仕事の範囲と、Bさんが認識している仕事の範囲にズレが生まれます。
社長と社員の「ちゃんと」は同じ意味ではない
例えば、次のような状況です。
社長:「Aさんの時は、わざわざ言わなくてもやってくれたのに」
Bさん:「指示された仕事はちゃんとやっているのに、なぜ評価されないのだろう」
どちらも、自分なりに正しいと考えています。しかし、仕事に対する期待が一致していないため、お互いに不満やストレスを抱えることになります。
米国などでは、ジョブディスクリプション(職務記述書)を活用し、担当する仕事の内容や責任範囲を明確にする企業があります。
一方、日本の中小企業では、担当業務をそこまで細かく規定せず、社員が状況に応じて柔軟に対応することを期待するケースも少なくありません。
もちろん、その柔軟さが日本企業の強みになることもあります。ただし、働く人の価値観が多様化する中で、「仕事なんだから、これくらいやるのが当たり前だろう」という考え方だけでは、社員との認識を合わせることが難しくなっています。
経営者は「言わなくても分かってほしい」と期待し、社員は「自分がちゃんと仕事をしていることを分かってほしい」と期待する。
このような期待のズレが積み重なると、社員の評価に対する不満が増え、結果として仕事の品質にも悪影響を及ぼします。
仕事の品質を高めるには評価基準の明確化が必要
最低限求める仕事とプラスαの仕事を区別する
では、経営者と社員の期待のズレをなくし、仕事の品質を高めるにはどうすればよいのでしょうか。
大切なのは、仕事の評価基準を明確にすることです。
具体的には、次の四つの段階で考えます。
1. 最低限やってほしい仕事を明確にする
まず、社員に求める仕事の内容や品質、期限などを具体的に決めます。「ちゃんと対応する」ではなく、「何を、どの水準まで、いつまでにやるのか」を明らかにすることが重要です。
2.最低限の基準を満たしているか評価する
決められた仕事ができていなければ、その理由を確認した上で、必要な指導や評価を行います。一方、求める水準を満たしている場合は、それを正当に評価します。
3.プラスαの行動は加点評価する
指示されていない仕事でも、会社やお客様にとって価値のある行動をした場合には、プラスの評価をします。ただし、その行動が期待されることを事前に伝えていないのであれば、やらなかったことを理由に一方的に評価を下げるべきではありません。
4.プラスαの行動を会社の標準にする
特定の社員が行っている優れた行動を、会社全体に広げたい場合は、その内容を明文化します。そして、次の段階では最低限求める仕事の基準に組み込みます。
このように、優れた行動を個人任せにせず、会社の仕組みとして定着させていくことが大切です。
社員が納得できる評価基準が業務品質を高める
何をすればプラスの評価になり、何をしなければマイナスの評価になるのか。その基準が曖昧な会社では、社員も何を目指して仕事をすればよいのか分かりません。
一方、評価基準が明確であれば、社員は自分に求められている役割を理解しやすくなります。
また、経営者にとっても、社員の好き嫌いや過去の担当者との比較ではなく、客観的な基準に基づいて評価できるようになります。
大切なのは、社員全員に同じ能力や行動を求めることではありません。会社として最低限必要な仕事の品質を明確にし、その水準を誰もが理解できるようにすることです。
その上で、優れた社員の行動を会社全体に広げる。
この積み重ねが、担当者個人の能力に左右されにくい組織づくりにつながります。
担当者交代は会社の仕組みを改善するチャンス
「Aさんの時はちゃんとできていたのに」
そう感じた時、後任者のBさんを責めるだけでは、問題の本質を見落としてしまうかもしれません。
まずは、Aさんができていた仕事の中身を具体的に確認する。その上で、Bさんができていないのは能力や経験の問題なのか、それとも会社の仕組みや引き継ぎに問題があるのかを検証する。
さらに、Aさんが自主的に行っていた仕事については、会社として本当に必要なものなのかを見極め、必要であれば業務の基準に加えていく。
こうした取り組みを通じて、仕事の属人化を防ぎ、業務品質を安定させることができます。
優秀な社員がいることは、会社にとって大きな強みです。しかし、その社員がいなければ仕事の質を維持できないのであれば、組織としては改善の余地があります。
担当者が代わって仕事の質が落ちた時こそ、会社の仕組みを見直す絶好の機会です。
「ちゃんと」という曖昧な言葉を具体的な仕事の基準に変える。
それが、社員の納得感を高め、会社全体の仕事の品質を向上させる第一歩になります。
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