ミセルチカラの磨き方
「商品は売るな」に学ぶ、売れる営業担当者の育て方

営業担当者に商品知識を教えても成果が出ない理由
営業担当者に商品の知識を教えているのに、思うように成果が上がらない。そんな悩みを抱える中小企業の経営者は少なくありません。
実は、売れる営業担当者を育てるために必要なのは、商品の魅力を上手に説明する技術ではありません。
ある経営者は社員に「商品は売るな」と伝えていました。この一見矛盾した言葉には、営業の本質と人材育成の重要な考え方が込められています。
今回は、「商品は売るな」という言葉の真意を紐解きながら、売れる営業担当者の育て方について考えてみます。
「商品は売るな」に込められた営業の本質
「商品は売るな」
ある経営者が、自社の営業担当者によく伝えていた言葉です。
営業と言えば、自社の商品やサービスを売るのが仕事です。では、なぜその経営者は、あえて「売るな」と指示していたのでしょうか。
その指示を受けていた社員の方は、自社の商品がとても大好きでした。その気持ちは、私がお話を伺っていてもよく伝わってきます。
自社の商品に誇りを持っていることは、営業担当者として大切な資質です。商品を好きでなければ、お客様に自信を持って提案することはできません。
しかしながら、社員が熱く商品の魅力を語っても、その商品が売れるとは限りません。
むしろ、相手の状況を十分に把握しないまま商品の良さを語り続けると、営業は空回りします。お客様からすれば、「こちらの事情を分かってくれていない」と感じることもあるからです。
その事情を察して、その経営者は「商品は売るな」と伝えていたのだと思います。
ただし、この言葉は抽象度が高い言葉です。相手によっては、その真意が上手く伝わらないこともあります。
そこで、「商品は売るな」という言葉を私なりに分解すると、次の3つの要素になります。
- 相手の話をよく聞く
- すぐに答えを出さない
- 商品を使っている姿を共有する
売れる営業担当者は、まず相手の話をよく聞く
私も起業当初は勘違いしていました。
会社に問い合わせがあると、「この人はウチの商品に興味があるのだ」「すぐに購入を検討しているのだ」と思い込んでしまうことがあります。
しかし、実際にはそうとは限りません。
単なる情報収集が目的の人もいます。将来的には買うかもしれないけれど、今すぐではないという人もいます。社内で比較検討するために、まず話だけ聞きたいという人もいます。
このため、営業担当者にとって最初に大切なのは、商品の説明ではありません。
相手の話をよく聞いて、いま相手がどのような状況にあるのかを見極めることです。
- 相手は何に困っているのか。
- なぜ今、その商品やサービスに関心を持ったのか。
- いつまでに、どのような状態を実現したいのか。
- 誰が意思決定に関わっているのか。
こうした背景を把握しないまま、商品の特徴や購入メリットを熱く語っても、相手には響きません。
営業担当者が商品のことを好きであればあるほど、つい話したくなります。けれども、売れる営業担当者ほど、最初に話すのではなく、まず聞きます。
経営者が営業担当者を育てる際には、「もっと商品の良さを伝えなさい」と指導する前に、「相手の話をどこまで聞けているか」を確認することが大切です。
営業では、すぐに答えを出さない姿勢も重要
相手の状況がある程度分かったとしても、すぐに答えを出さないことも大切です。
営業担当者は、お客様の悩みを聞くと、すぐに「その問題なら、この商品で解決できます」と言いたくなります。
もちろん、早く答えを出すことが必要な場面もあります。しかし、まだ相手との関係性が浅い段階で安易に提案してしまうと、かえって説得力に欠けることがあります。
たとえば、相手が「強度はこのぐらいは欲しい」と言ったとします。
しかし、その商品をどのような環境で使うのか。どれくらいの頻度で使うのか。誰が使うのか。長期的にはどのような使い方を想定しているのか。
こうした点を確認すると、相手が希望していた「このぐらいの強度」では足りないこともあります。この場合、営業担当者が相手の言葉をそのまま受け取って商品を提案すると、後にトラブルになる恐れがあります。
大切なのは、相手が「商品を使って、最終的にどういうことを実現したいのか」を把握することです。その目的が分かれば、目先の要望に合わせるだけではなく、本当に必要な提案ができます。
また、根源的な問題を解決するには、自社の上位商品を使った方が良いケースもあります。それにもかかわらず、営業担当者が目先の売上を優先して安い商品を提案してしまうと、お客様の本当の課題は解決されません。結果として、本来得られるべき収益を逃してしまうこともあります。
売れる営業担当者を育てるには、「早く答えを出す力」だけでなく、「答えを急がず、問題の本質を見極める力」を育てる必要があります。
商品説明ではなく、商品を使う未来を共有する
商談では、どうしても売る側と売られる側に分かれます。
営業担当者は「売る人」。見込み客は「売られる人」。この構図が強くなるほど、相手は身構えます。
けれども、営業担当者と見込み客が横に並び、その商品を使っている未来の姿を一緒に見ているような状況ができたらどうでしょうか。
その時、商品は自然と売れていきます。
よく「お客様目線に立つ」と言われます。たしかに大切な考え方です。
ただし、人は他人の頭の中を100%把握することはできません。どれだけ相手の立場に立とうとしても、完全に同じ感覚になることは難しいものです。
一方で、同じ映画を見ながら感動することはできます。同じスポーツの試合を見ながら、悔しがったり、喜んだりすることもできます。
営業も同じです。
- お客様と一緒に、商品を使っている未来の姿を見る。
- 商品を使った先にある変化を共有する。
- その商品がもたらす世界観を一緒に感じる。
この状態ができれば、強引に売り込まなくても、お客様は自然に関心を持ちます。
逆に言えば、その世界観を共有できない人に対して、無理に売る必要はありません。どれだけ商品の機能を説明しても、どれだけ価格の安さを伝えても、その人が望む未来と商品の世界観が合わなければ、良い関係にはなりにくいからです。
営業担当者には、商品の特徴を説明する力だけでなく、「この商品を使うと、お客様にどのような未来が生まれるのか」を一緒に描く力が求められます。
営業担当者の育成では、経営者の言葉を具体化することが欠かせない
ここまで、「商品は売るな」という言葉を3つの要素に分けて考えてきました。
- 相手の話をよく聞く
- すぐに答えを出さない
- 商品を使っている姿を共有する
ただし、これはあくまで私なりの解釈です。もしかすると、前述の経営者は少し違う意味を込めて、「商品は売るな」と社員に伝えていたのかもしれません。
ここで経営者が注意すべきなのは、抽象度の高い言葉は、人によって受け取り方が変わるということです。
経営者にとっては当たり前の言葉でも、社員にとっては分かりにくいことがあります。
- 「もっとお客様目線で考えてほしい」
- 「相手の立場に立って提案してほしい」
- 「ただ売るのではなく、価値を届けてほしい」
これらはどれも大切な言葉です。しかし、そのまま伝えるだけでは、社員の行動は変わらないかもしれません。なぜなら、社員は「では具体的に何をすればよいのか」まで分からないことがあるからです。
経営者が営業担当者を育てるには、抽象的な言葉を具体的な行動に落とし込む必要があります。
たとえば、「相手の話をよく聞く」であれば、どのような質問をするのか。どの情報を確認するのか。どの段階で商品説明に入るのか。
「すぐに答えを出さない」であれば、どのような確認が終わるまでは提案を控えるのか。どのような場合には上司に相談するのか。
「商品を使っている姿を共有する」であれば、どのような事例を伝えるのか。どのような未来像をお客様と一緒に描くのか。
ここまで具体化して初めて、社員は行動に移しやすくなります。
人材育成は、経営者の真意が伝わるまで続ける仕事
大切なのは、次の3つです。
- 言葉の抽象度が高いと、その真意が伝わらないことがある
- 経営者はそれを前提に、より分かりやすく伝える必要がある
- 社員の言動が変わるまで伝え続けないと、真意は伝わらない
人材育成は息の長い仕事です。
経営者の真意がすぐに伝わる社員もいます。一方で、何度伝えてもなかなか理解できない社員もいます。
一度言っただけで変わる人もいれば、何度も経験して、ようやく腑に落ちる人もいます。
だからこそ、経営者には粘り強さが求められます。
- 手を変え、言葉を変え、タイミングを変えて伝える。
- 一方的に注意するのではなく、なぜその行動が必要なのかを説明する。
- 社員の行動が少しでも変わったら、その変化を見逃さずに伝える。
こうした積み重ねが、売れる営業担当者を育てる土台になります。
まとめ|売れる営業担当者は、商品を売る前に顧客を理解する
「商品は売るな」という言葉は、営業を否定する言葉ではありません。むしろ、営業の本質を突いた言葉です。
売れる営業担当者は、商品を一方的に売り込みません。まず相手の話を聞き、問題の本質を見極め、商品を使った未来を一緒に描きます。
そして、そのような営業担当者を育てるためには、経営者自身が言葉の伝え方を工夫する必要があります。
- 抽象的な言葉を、具体的な行動に落とし込む。
- 社員の理解度に合わせて、何度も伝える。
- 商品説明ではなく、顧客理解を重視する営業文化をつくる。
これが、売れる営業担当者を育てるために経営者が取り組むべき人材育成です。
商品を売ろうとする前に、お客様が本当に実現したい未来を見る。
その姿勢が、結果として商品が自然に売れる営業につながっていきます。
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