ミセルチカラの磨き方
「真面目なのに物足りない社員」をどう育てるか|仕組み化と個別対応の判断基準

能力が低いわけではなく、仕事にも真面目に取り組んでいる。それでも、経営者から見ると「もう少し考えて動いてほしい」「何か物足りない」と感じる社員はいないでしょうか。
このような社員を育てるには、本人のやる気や意識だけを問題にするのではなく、まず仕事の進め方や指示の出し方に改善できる部分がないかを確認する必要があります。ミスや期限の認識不足は、業務の仕組み化やルールづくりによって改善できることがあるからです。
一方で、取引先への遠慮や苦手意識など、社員一人ひとりの感情や思考が関係している問題は、仕組み化だけでは解決できません。対話を通じた個別対応や、会社が求める基準と改善期限を明確にすることも必要になります。
本記事では、「真面目なのに物足りない社員」をどう育てるかという経営者の悩みをもとに、仕組み化で改善できる問題と、個別対応が必要な問題の見分け方を解説します。社員育成を中途半端なまま続けず、経営改革を前に進めるための判断基準を考えていきます。
真面目なのに仕事で物足りなさを感じる社員
社内には、能力が決して低いわけではなく、仕事にも真面目に取り組み、やる気や意欲もあるのに、経営者から見ると物足りなさを感じる社員がいるものです。
頼んだ仕事は一応やっている。勤務態度にも大きな問題はない。それでも、確認が甘かったり、対応が遅かったり、自分から一歩踏み込んで動くことが少なかったりする。
そのような状態が続くと、経営者は次第に、
「なぜ、そこまで言わないと分からないのか」
「もう少し自分で考えて動いてほしい」
と不満を感じるようになります。
しかし、そこで社員本人の能力や意識だけを問題にすると、改善できるものまで見逃してしまうことがあります。
社員の仕事ぶりに問題を感じたときは、まず、その問題が仕組みで改善できるものなのか、それとも個別対応が必要なものなのかを分けて考えることが重要です。
仕組み化で改善できる社員のミス
人の注意力だけに頼るとミスはなくならない
たとえば、社員のミスが多いケースです。
エクセルを使って数字を管理している会社では、リンク先の間違いや入力漏れによって、複数の資料に記載された数字が一致しないことがあります。
高機能なシステムを導入していれば、入力ミスや数字の不一致を自動的に検出できるかもしれません。しかし、社員が独自に作った管理表で作業している場合、ミスそのものに気づかないこともあります。
私も、クライアント先で資金繰り表を作成するサポートをしています。複雑な数式や複数のリンクを組み合わせていると、どれだけ注意していても、ミスを完全にゼロにすることは簡単ではありません。
だからこそ、社員に「もっと注意して」と求めるだけでは不十分です。
人の注意力には限界があります。注意力に頼るのではなく、ミスが起きても早く気づける仕組みをつくる必要があります。
ミスを防ぐより、すぐに気づける仕組みをつくる
たとえば、次のような工夫があります。
- 縦の合計と横の合計の差がすぐに分かる表を作成する
- 10万円以上の金額が入力されたセルは色が変わる設定にする
- 複数ページにまたがる資料で、同じ項目の数字が一致しているか確認できる一覧表を作る
- リンクを作成する際は、できる限り同じ列に統一し、コピーしても参照先がずれないようにする
どれも、大がかりなシステム導入ではありません。少し表の作り方を変えたり、確認方法を加えたりするだけでも、ミスを減らすことはできます。
社員のミスが続いたとき、すぐに本人の能力不足と決めつけるのではなく、仕事のやり方にミスが起きやすい構造がないかを確認する。
これが業務改善の第一歩です。
仕事の目的と期限も仕組みで共有できる
「メールを送りました」で仕事を終わらせない
次に、社員が他部署や取引先に遠慮して、必要な情報を集められていないケースです。
社長が社員に、「あの件は、どうなった?」と聞いたところ、「一昨日、メールを送っています」という返事が返ってきた。
その答えを聞いて、「メールを送っただけでは終わっていない。もう一度電話して、すぐに確認してほしい」と怒った経験がある経営者もいるのではないでしょうか。
社長からすれば、必要な情報を期限までに集めることが仕事です。しかし、社員側は、メールを送ること自体が仕事だと理解しているかもしれません。
この認識のずれを放置したまま、社員に「もっと責任感を持ってほしい」と求めても、同じことが繰り返されます。
背景・目的・緊急性をセットで伝える
社員が期待通りに動かない理由として、次のようなものが考えられます。
- 頼まれた仕事の重要性を理解していない
- 仕事の期限を把握していない
- 他部署や取引先に遠慮している
- 人と話すことに苦手意識がある
このうち、仕事の重要性や期限が分かっていないのであれば、指示の出し方を変えることで改善できます。
仕事を依頼するときは、作業内容だけではなく、次の点もセットで伝えます。
- なぜ、この情報が必要なのか
- この仕事が遅れると、誰にどのような影響が出るのか
- いつまでに完了させる必要があるのか
- 期限までに返事がない場合、どのような追加対応をするのか
また、期限については「なるべく早く」「今週中」といった曖昧な表現を避けることも大切です。「何月何日の何時まで」と、お互いに具体的な日時を確認するルールをつくれば、認識のずれは減らせます。
このように、仕事の目的や期限に関する問題は、指示方法や社内ルールを見直すことで改善できる可能性があります。
仕組み化だけでは改善できない社員の問題
遠慮や苦手意識には個別対応が必要になる
一方で、社員が遠慮しがちな性格であったり、人と話すことに強い苦手意識を持っていたりする場合は、仕組みやルールだけでは、なかなか改善できません。なぜなら、行動できない背景に、その社員固有の感情や過去の経験があるからです。
同じように取引先への連絡をためらう社員でも、その理由は人によって違います。
ある会社では、Aさんは過去にお客様からひどく怒られた経験があり、その記憶から取引先への連絡を遠慮するようになっていました。一方、Bさんは自分の経験が浅いことに負い目を感じており、「自分が電話をしても、うまく説明できないのではないか」と不安になっていました。
表面上の行動は同じでも、行動できない理由は異なります。
そのため、Aさんに効果があったアドバイスをBさんに伝えても、同じように改善するとは限りません。
社員育成では、行動だけを見るのではなく、その行動の背景にある感情や思考まで確認する必要があります。
一律の指導では社員は変わらない
仕組み化は、会社全体の仕事の進め方を整えるうえで有効です。しかし、個人の不安や苦手意識まで、一律のルールで解消することはできません。
「電話をかけること」
「返事がなければ再度連絡すること」
とルールに書いても、その社員が電話をかけること自体に強い不安を感じていれば、行動は変わらない可能性があります。
このような場合は、
「なぜ電話をかけることをためらうのか」
「どのような場面で不安を感じるのか」
「何があれば一歩踏み出せそうなのか」
といった対話が必要です。
社員に合わせた個別対応は、時間も手間もかかります。それでも、仕組みで解決できない問題を仕組みだけで解決しようとすると、社員も経営者も疲弊してしまいます。
少人数の会社ほど社員育成が中途半端になりやすい
社長が個別対応まで抱える限界
部長や課長などの中間管理職がいる会社であれば、社員の様子を日常的に観察し、きめ細かな対応を行うことも可能です。しかし、少人数で会社を経営していて、社長が社員に直接指示することが多い会社では、状況が異なります。
社長は、営業、資金繰り、採用、取引先対応、商品開発など、さまざまな仕事を抱えています。そのなかで、社員一人ひとりの感情や考え方まで確認し、継続的に成長を支援する時間を確保するのは簡単ではありません。
その結果、「仕事には不満があるが、今すぐ辞められても困る」という社員が複数生まれることがあります。
すると、重要な仕事は特定の社員に集中し、任せられる社員と任せられない社員の差が広がります。負担が集中した社員には不満がたまり、会社全体の雰囲気も悪くなっていきます。
社員の成長を待つのか、期限を設けるのか
一番避けたいのは中途半端な状態を続けること
仕組み化だけでは改善できない問題に直面したとき、一番避けたいのは、中途半端な対応を続けることです。
経営者には、大きく分けて二つの選択肢があります。
一つは、多少時間がかかっても、社員との対話を増やし、その人の成長を支援することです。
もう一つは、会社が求める役割や行動基準を明確に伝え、一定の期限までに改善できない場合は、配置転換や退職も含めて今後を判断することです。
どちらが正しく、どちらが間違っているという話ではありません。会社の状況、社員の役割、改善の可能性、経営者が使える時間などによって、選ぶべき対応は変わります。
大切なのは、何となく様子を見ることではなく、どこまで支援し、いつまでに何を求めるのかを明確にすることです。
会社が求める条件を言葉にする
社員に改善を求めるのであれば、経営者の頭のなかにある期待を、具体的な言葉にする必要があります。
「もっとしっかりしてほしい」
「もう少し積極的に動いてほしい」
という表現だけでは、社員は何を変えればよいのか分かりません。
たとえば、
- 依頼を受けた当日に、目的と期限を確認する
- 取引先から期限までに返事がなければ、翌日の午前中に電話する
- 仕事が遅れる可能性が分かった時点で、上司に報告する
- 判断に迷った場合は、一人で抱え込まず相談する
といったように、求める行動を具体化します。そして、改善状況を確認する期限も決めます。
基準と期限が明確になれば、社員自身も何を改善すべきか理解できますし、経営者も感情ではなく事実をもとに判断できます。
経営改革では社員への曖昧な対応が組織を弱くする
会社を大きく変えようとすると、どうしても改革の波に乗り切れない社員が出てきます。これまでの仕事の進め方を変えることに抵抗を感じる人もいれば、新しい役割に適応できない人もいます。
その際、経営者が曖昧な対応を続けていると、改革が進まないだけではありません。
新しいやり方に合わせようと努力している社員から、
「なぜ、あの人だけ許されるのか」
「真面目に取り組んでいる自分たちが損をしている」
という不満が出るようになります。
結果として、経営改革に着手する前よりも、会社の業績や雰囲気が悪くなることさえあります。
社員が変わるための環境を整えることは、経営者の仕事です。しかし、環境を整えたからといって、社員全員が期待通りに変わるとは限りません。
だからこそ、経営者には、環境を整える責任だけでなく、その後の変化を見極める責任もあります。
仕組み化と個別対応の境界線を明確にする
社員の仕事ぶりに物足りなさを感じたときは、まず問題を次の二つに分けて考えることが重要です。
一つは、仕事の進め方や指示方法、確認ルールなど、仕組みを整えることで改善できる問題です。
もう一つは、不安、遠慮、苦手意識、過去の経験など、社員個人の感情や思考に関係する問題です。
仕組みで改善できる問題であれば、本人の注意力や努力に頼る前に、業務の流れを見直します。個別対応が必要な問題であれば、対話を増やし、必要に応じて改善基準と期限を設定します。
そして、どこまで支援し、いつまで成長を待つのかを、経営者自身が決めることが必要です。
仕組み化だけでは対応できない問題を放置せず、何をどこまで行うのかを明確にする。
それが、社員育成を前に進め、経営改革を中途半端に終わらせないための重要な判断基準です。
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