ミセルチカラの磨き方
数字は逃げれば魔物、向き合えば指標になる|経営者に必要な数字との付き合い方

「数字が苦手だから、経営数字を見るのはどうも気が重い」。
そう感じる経営者は少なくありません。
しかし、経営に必要なのは、暗算が速いことでも、経理の細かい実務に詳しいことでもありません。大切なのは、売上や利益、資金繰り、新規事業の採算性といった、経営判断に必要な数字から逃げずに向き合うことです。
特に新しい事業に取り組む際には、「面白そう」「うまくいきそう」という感覚だけでは判断できません。本当に利益が出るのか、どのくらいの資金が必要なのか、投資したお金をいつ回収できるのか。こうした点を数字で確かめて初めて、実現可能性が見えてきます。
数字は、避け続ければ経営者を不安にさせる「魔物」になります。一方で、きちんと向き合えば、次に何をすべきかを教えてくれる「指標」に変わります。
今回は、数字が得意か苦手かではなく、経営者が会社を良くするために、数字とどう向き合えばよいのかを考えます。
経営者に必要なのは「数字が得意」なことではない
私は「勘定を整える」ことを仕事の軸に置いているので、一部のお客様からは「数字が得意な人」と思われています。
しかし、本人にはその自覚がありません。
私は暗算があまり得意ではありませんし、営業ノルマのように「数字に追われる」ことも大嫌いです。大学受験でも、迷うことなく文系を選びました。
それでも、仕事では数字をよく使います。
なぜなら、数字には大きく三つの特徴があるからです。
- 数字には一定の答えがある
- 数字を使えば結果を検証できる
- 数字があれば論理的に説明できる
つまり、数字が好きだから使っているのではなく、経営判断を曖昧にしないために使っているのです。
経営者に必要なのも、計算が速いことではありません。必要な場面で必要な数字を確認し、その数字をもとに判断できることの方がはるかに重要です。
新規事業は「面白そう」だけでは判断できない
経営者と「どうすれば会社がもっと儲かるか」という話をしていると、さまざまなアイデアが出てきます。
中には、話を聞いているこちらまでワクワクして、「それ、面白いですよね」と思うようなアイデアもあります。
経営者の情熱は、新しい事業を始めるうえで大切です。しかし、経営判断では「面白い」という感覚だけで前に進むわけにはいきません。
新規事業で確認したい4つの数字
新しい事業に取り組む際には、少なくとも次のような点を確認する必要があります。
- 本当に利益が出るのか
- どのくらいの資金が必要なのか
- 投資した資金をどのくらいの期間で回収できるのか
- 今の会社の財務状況で実現できるのか
どれほど魅力的なアイデアでも、必要な資金が準備できなければ実行できません。また、売上が増えても、それ以上に経費が増えれば会社にお金は残りません。
だからこそ、新規事業では「やりたいかどうか」だけでなく、「実現できるかどうか」を数字で検証する必要があります。
経営者の「肌感覚」を数字で確かめる
長年、経営者の方々と新しい事業について打ち合わせをしていると、私自身にもある程度の肌感覚が身についてきました。
話を聞いているうちに、「これは面白いし、実現できそうだ」と感じることもあれば、「面白いけれど、実現するのはかなり難しそうだ」と感じることもあります。
ただし、これはあくまでも私自身の肌感覚です。当然ながら、経営者本人の肌感覚とは違います。また、私が詳しくない業界であれば、私の直感が間違っていることも十分にあります。
だからこそ、「感覚対感覚」で議論するのではなく、数字を使って確認します。
「面白くないけれど実現できる事業」もある
経営では時として、「面白いけれど実現するのが難しい事業」よりも、「それほど面白くないけれど実現できる事業」を優先した方がよい場合があります。
もちろん、最終的にどちらを選ぶかは経営者の判断です。
ただし、経営資源には限りがあります。使える資金にも、人材にも、時間にも限界があります。
だからこそ、限られた経営資源をどこに振り向けるのかを判断する材料として、数字が必要になるのです。
銀行から融資を受けるなら数字で説明する必要がある
数字が特に重要になるのが、新規事業のために銀行から融資を受けるケースです。
銀行の担当者が、その業界や事業について詳しいとは限りません。つまり、自分たちにとっては「絶対にうまくいく」と思える事業でも、その分野を知らない人に理解してもらい、融資の審査を通してもらう必要があります。
そんな時、私は経営者に、「まずは、私にも分かるように事業内容を説明してください」とお伝えすることがあります。
本気でやりたい事業ほど数字が出てくる
すると、本気でその事業をやりたい経営者は、
「この価格で販売する」
「これくらいの顧客数を見込んでいる」
「このくらいの費用がかかる」
「何年で投資を回収する」
と、次第に数字を使って説明してくれるようになります。
一方で、そこまで本気ではない場合、数字を詰めていくうちに、その事業について語らなくなることもあります。
ここで大切なのは、「数字が得意か苦手か」ではありません。その事業を本気で実現したいと思っているかどうかです。
本気であれば、「分からないから見ない」では済ませず、必要な数字を調べようとします。
「数字が苦手」という経営者が本当に苦手なもの
経営者から、「私は数字が苦手なんです」と聞くことがあります。
しかし、よく話を聞いてみると、本当に数字そのものが苦手というケースは、それほど多くありません。
苦手なのは、
・勘定科目
・貸借対照表
・細かな仕訳
・経理処理
といった、経理の専門的な実務であることが多いのです。
しかし、それと「経営に必要な数字が分からない」ことは別の話です。
むしろ、長年会社を続けてきた経営者ほど、
「この売上ならこれくらい利益が残る」
「この案件ならこれくらい人手が必要だ」
「この価格では採算が合わない」
といった経営の勘所になる数字を把握しています。
私よりもはるかに数字に強いと感じる経営者も少なくありません。
数字が苦手でも、数字から逃げてはいけない
問題なのは、「数字が苦手」という意識から、経営数字をまったく見ようとしなくなることです。
本当に数字が苦手だったとしても、会社をさらに良くしたいのであれば、数字と向き合うことは避けられません。
ただし、これは経営者本人がすべての数字を計算したり、自分で資金繰り表を作ったりしなければならない、という意味ではありません。
経営者の仕事は数字を「作ること」ではなく「向き合うこと」
自分より数字が得意な社員がいるのであれば、その社員に資料を作ってもらえばよい。社内に適任者がいなければ、お金を払って専門家に依頼する方法もあります。
大切なのは、「自分は数字が苦手だから、あとは任せる」で終わらせないことです。
出てきた数字を見て、
「なぜこの数字になっているのか」
「このまま進めて大丈夫なのか」
「どこを変えればもっと良くなるのか」
を考える。
そこまでが経営者の仕事です。
勘や経験を数字で裏付ければ経営判断は強くなる
長年会社を経営していれば、経験から生まれる勘や肌感覚があります。それを否定する必要はありません。むしろ、長年積み重ねてきた経営者の感覚は、数字だけでは分からない重要な判断材料になることがあります。
ただし、取引先や銀行、社員など、自分以外の人を巻き込んで新しいことに取り組むのであれば、「私はこう思う」だけでは相手を動かせない場合があります。
その時に役立つのが数字です。
勘や肌感覚を数字で裏付ける。あるいは、数字を見ながら自分の勘が正しいのかを確かめる。
この二つを組み合わせることで、経営判断の精度はさらに高まります。
数字は逃げれば魔物、向き合えば指標になる
私はクライアントさんに時折、「お金は逃げれば魔物になり、向き合えば指標になる」とお伝えしています。
お金のことを考えるのが怖いからと、資金繰りや利益から目を背ける。すると、不安だけが大きくなり、お金はますます得体の知れない「魔物」のように感じられます。
しかし、実際に数字を確認してみれば、
「あとどのくらい売上が必要なのか」
「どの経費を見直すべきなのか」
「どのくらいまで投資できるのか」
といった、次の行動が見えてきます。
これは「お金」を「数字」に置き換えても同じです。
数字は逃げれば魔物になり、向き合えば指標になる。
会社を良くしたいのであれば、数字が得意か苦手かはそれほど重要ではありません。重要なのは、本気で会社を良くするために、必要な数字と向き合う覚悟があるかどうかです。
経営者として長年培ってきた勘や肌感覚を大切にしながら、それを数字で確かめる。
その積み重ねが、より確かな経営判断につながっていくのではないでしょうか。
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