ミセルチカラの磨き方
「言ったつもり」の社長が会社を混乱させる|伝わるコミュニケーションの設計法

社長の「言ったつもり」が、知らないうちに会社を混乱させているかもしれません。
会社のコミュニケーションでは、「言ったかどうか」よりも、「相手にどう伝わったか」が重要です。経営者が自分の知識や経験をすべて話しても、社員が理解し、納得し、行動できるとは限りません。
むしろ、言う内容、言う相手、言うタイミングを間違えると、良かれと思った一言が社員を混乱させたり、成長の機会を奪ったりすることもあります。
本記事では、「言ったつもり」で終わらせないために、社長が意識したい伝わるコミュニケーションの設計法について解説します。
社長の言葉が社員に伝わらない理由
「何を言うかは知性、何を言わないかは品性」
あるSNSで偶然見かけた言葉です。元はお笑い芸人の方の名言とも言われているようですが、この言葉は会社のコミュニケーションにもそのまま当てはまります。
社長は、自分の経験や知識をもとに、社員にいろいろなことを伝えようとします。それ自体は決して悪いことではありません。
しかし、社長が知っていること、考えていること、正しいと思っていることを何でもかんでも伝えれば、社員が動きやすくなるわけではありません。むしろ、情報が多すぎることで、社員が何を優先すべきか分からなくなることもあります。
また、最近はAIの発達により、特定の専門分野では、社長よりも社員の方が詳しい情報を持っていることも珍しくありません。
そのような時代において、社長に求められるのは、単に知識を伝えることではありません。
大切なのは、
- 何を言うか
- 誰に言うか
- いつ言うか
を見極めることです。
社長のコミュニケーションは、発言量ではなく、相手に届く設計になっているかどうかで決まります。
「言う内容」を間違えると社員は混乱する
社長が社員に考えを伝える際、結論だけを伝えると、社員が混乱することがあります。
たとえば、昨日までは「Aを優先しよう」と言っていたにもかかわらず、今朝になって突然「AよりもBを先にやってほしい」と指示した場合です。
社長の中では、状況の変化や新しい判断材料があったのかもしれません。しかし、その背景を伝えずに結論だけを言うと、社員は「また社長の気まぐれが始まった」と受け取る恐れがあります。
この場合に必要なのは、単に「Bを先にやれ」と言うことではありません。
なぜ優先順位が変わったのか。
どのような背景があるのか。
何を基準に判断したのか。
そこまで伝えることで、社員は初めて社長の意図を理解できます。社長にとっては当たり前の判断でも、社員にとっては突然の方針変更に見えることがあります。
だからこそ、経営者の伝え方では、結論だけでなく、理由や背景を添えることが重要です。
「言う相手」によって伝え方を変える
同じ内容でも、誰に伝えるかによって、言葉の選び方は変わります。
部長に伝えるのか。
新入社員に伝えるのか。
現場の責任者に伝えるのか。
取引先に伝えるのか。
相手の立場や経験値によって、理解できる前提は異なります。
社長が部長に対して使う言葉を、そのまま新入社員に使っても、うまく伝わらないことがあります。逆に、新入社員向けに細かく説明しすぎると、経験豊富な社員にはまどろっこしく感じられることもあります。
これは社内だけの話ではありません。
商談でも、相手がすでによく知っていることを長々と説明してしまうと、「こちらのことをちゃんと調べていない」と思われる可能性があります。本来ならスムーズに進むはずの話が、相手への理解不足によって止まってしまうのです。
伝える相手が変われば、伝える言葉も変わります。
社長のコミュニケーション改善では、「自分が何を言いたいか」だけでなく、「相手はどこまで分かっているのか」を見極めることが欠かせません。
「言うタイミング」を誤ると正しい言葉も届かない
コミュニケーションでは、内容が正しくても、タイミングを誤ると伝わらないことがあります。
私自身も打ち合わせの中で、「いまこれを言っても、相手は受け止められないだろう」と感じることがあります。
そのような時、あえて言うのか、今回は言わずに止めておくのか。その判断はケースバイケースです。
また、トラブルが起こった時に、「誰がやったのか?」と責任追及から入るのか。それとも、まず事実確認をして問題解決を優先するのか。
この違いによって、その場で使うべき言葉は大きく変わります。
責任を明らかにすることが必要な場面もあります。しかし、最初から責任追及の言葉を投げかけると、社員は防御姿勢に入ります。そうなると、本当に必要な事実が出てこなくなることがあります。
社長として言うべきことがあったとしても、いま言うべきかどうかは別問題です。伝えるタイミングを見極めることも、経営者に必要なコミュニケーション能力の一つです。
「言ったから自分は悪くない」は組織では通用しない
「とりあえず言うべきことはすべて言った」。
これでは、会社のコミュニケーションとしては不十分です。
後になって、「あの時、注意したよね」「前に説明したよね」と言って、自分に非はないと主張することはできます。しかし、会社という組織で活動している以上、「悪いのはアイツです」だけでは済みません。
社員が理解していなかった。
行動に移せなかった。
判断を誤った。
その結果、会社に問題が起こったのであれば、社長としては「なぜ伝わらなかったのか」を考える必要があります。
もちろん、すべてを社長の責任にする必要はありません。しかし、経営者の立場で考えるなら、「言ったかどうか」ではなく、「伝わったかどうか」「行動につながったかどうか」まで見ることが大切です。
コミュニケーションは、発信した時点で終わりではありません。相手に届き、理解され、行動につながって初めて機能します。
社員を育てる社長は、あえて全部を言わない
良かれと思って、自分の知っていることをすべて伝えようとする社長もいます。しかし、それが必ずしも社員の成長につながるとは限りません。
時には、すべてを言わないことも必要です。社長がすぐに正解を伝えてしまうと、社員は自分で考える機会を失います。
もちろん、放置してよいという意味ではありません。社員が考えるために必要な前提や判断材料は伝える。そのうえで、あえて社長なりの答えをすぐには言わない。
このような関わり方によって、社員は自分で考える力を身につけていきます。
何を言うかは知性です。しかし、何を言わないかには、相手の成長を信じる品性が表れます。
社長の役割は、社員に知識を浴びせることではありません。社員が考え、判断し、動けるようになる環境をつくることです。
伝わるコミュニケーションの基本は相手本位で考えること
言う内容、言う相手、言うタイミングを組み合わせると、コミュニケーションの形は無数にあります。そのため、すべてをパターン化することはできません。
しかし、基本となる考え方はシンプルです。
それは、相手に
- どう伝わるのか
- どうなってほしいのか
を考えることです。
つまり、自分本位ではなく、相手本位で「誰に、何を、どう伝えるか」を考えることです。
逆に言えば、自分の知識や経験をひけらかすために、相手構わず何でも話すのは、品性に欠けるコミュニケーションです。
社長の言葉は、社員に大きな影響を与えます。だからこそ、「自分が言いたいから言う」のではなく、「相手が受け取れる形で伝える」ことが重要です。
相手本位の伝え方には観察力が欠かせない
相手本位で「何を言うか」「何を言わないか」を決めるには、まず相手をよく観察することが出発点です。
相手も、自分の考えていることや感じていることを、すべて言葉にしてくれるとは限りません。むしろ、本音や迷いは、言葉ではなく、表情や仕草、沈黙に表れることがあります。
先日、ある打ち合わせで、こちらからの質問に対して、先方が答える前に一瞬の間がありました。私はその一瞬の間に、相手の迷いや、決断に対する戸惑いを感じました。
そこで、本来なら次に言おうと思っていたことを、その場ではあえて言いませんでした。
もちろん、私の受け止め方が正しかったかどうかは分かりません。あくまで仮説です。しかし、仮説を持って相手と向き合うことで、相手の真意や、言葉の裏にある感情が見えやすくなります。
先入観を持って話をするのは危険です。しかし、観察をもとに仮説を立てながら話すことは、相手本位のコミュニケーションには欠かせません。
社長の伝え方を変えると組織の動きが変わる
こちらに悪気がなくても、相手の地雷を踏んでしまうことがあります。その結果、相手が怒ったり、黙り込んだり、話が前に進まなくなったりすることもあります。
コミュニケーションは、それほど難しいものです。
しかし、そのような時こそ、必要以上に動揺せず、「なぜ相手はそう反応したのか」を考えることが大切です。
自分の言葉のどこに引っかかったのか。
相手は何を不安に感じたのか。
どの前提がずれていたのか。
そこを探ることができれば、次に伝える言葉は変わります。
社長の伝え方が変わると、社員の受け止め方が変わります。社員の受け止め方が変わると、組織の動きも変わります。
知性も品性も、一日で磨かれるものではありません。しかし、自分本位ではなく、相手本位で考えることを意識し続ければ、社長の言葉は少しずつ伝わる言葉に変わっていきます。
「何を言うか」だけでなく、「何を言わないか」。
この視点を持つことが、社員が育ち、組織が動くコミュニケーションの第一歩です。
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