ミセルチカラの磨き方
激動の時代に経営者が決めるべき「変えること」と「守ること」

激動の時代に会社を続けていくためには、経営者が「変えること」と「守ること」を見極める必要があります。利益率の低下や顧客ニーズの変化に直面した時、売り先や事業のやり方を変える判断が求められる一方で、会社として守るべき軸まで見失ってはいけません。
本記事では、歴史小説「極楽征夷大将軍」に描かれる足利尊氏の姿を通じて、中小企業の経営者が激動期に持つべき経営判断の視点を考えます。
足利尊氏は本当に「一貫性のない人物」だったのか
最近読み終えた本が「極楽征夷大将軍」です。
鎌倉時代の末期から建武の新政を経て、南北朝時代に至る流れを描いた歴史小説。
タイトルの「極楽征夷大将軍」とは、室町幕府の初代将軍である足利尊氏のことです。「極楽」という言葉がついているように、この小説の中での足利尊氏は、かなり頼りなく、やや情けない人物として描かれています。
その足利尊氏は、最初は鎌倉幕府側にいながら、途中から後醍醐天皇方につき、最終的にはその後醍醐天皇とも対立します。日本史でも学んだように、足利尊氏は時代の流れの中で立場を変えた人物です。
このように、あっちについたり、こっちについたりする人は、日本ではえてして評判が悪くなりがちです。
同じ小説に登場する楠木正成が、後醍醐天皇の忠臣として最後まで立場を変えなかった人物として称賛されることと比べても、足利尊氏の評価は対照的です。
しかし、構造的に考えると、足利尊氏は単に一貫性のない人物だったとは言い切れません。
なぜなら、「武士の利益を守る」という点では、最初から最後まで首尾一貫していたと見ることもできるからです。つまり、表面的には仕える相手を変えていても、根っこの部分では変わっていなかったのです。
激動の時代に経営者へ問われる「変えること」と「守ること」
現代も、鎌倉時代から室町時代へ移っていった時期と同じように、激動の時代です。
当時は日本各地で多くの戦がありました。現在も世界を見渡せば、各地で戦争や紛争が起きています。また、国内に目を向けても、物価高、人手不足、原材料費の上昇、顧客ニーズの変化など、経営環境は大きく変わり続けています。
このような時代において、経営者には重要な問いが突きつけられています。
それは「何を変えるのか」、そして、「何を変えないのか」という問いです。
業界によっては利益率が低下し、今のやり方のままでは事業を続けていくのが難しいケースもあります。その場合、売り先を変える、仕事のやり方を変える、時には業態転換を図ることも視野に入れなければなりません。
けれども、そのような検討をご提案すると、「ウチは変えるのは無理です」と回答される経営者が一定数おられます。また、そこまでキッパリとは言わなくても、いざ売り先ややり方を変えようとすると、実際にはなかなか動き出せない経営者も少なくありません。
変化が必要だと頭では分かっている。けれども、いざ自分の会社のことになると、変える決断ができない。
これは、多くの中小企業経営者が直面している現実ではないでしょうか。
変化に踏み出せない経営者に必要な第三者の視点
「極楽征夷大将軍」の中では、なかなか腰の重い足利尊氏を、弟である足利直義や、足利家の執事である高師直などが動かそうとする場面が何度も出てきます。
時には誉めそやし、時には叱責しながら、なんとか尊氏の意思を変えさせようとします。そして結果的には、最後は嫌々ながらも尊氏が意思を変え、激動の時代を乗り切っていきます。
では、会社経営者の場合はどうでしょうか。
社内に時代の流れを読み、時には経営者に苦言を呈してくれる社員がいて、その意見をきっかけに会社が変化できれば理想的です。
しかし、特にオーナー経営者の場合、現実にはそう簡単ではありません。社長に賛成する人はいても、あえて社長の考えを覆そうとする人は少ないからです。
むしろ、社長の顔色をうかがいながら、無難な意見しか言わないケースもあります。その結果、経営者自身が変化の必要性に気づいていても、意思決定が先送りされることがあります。
だからこそ、激動期の経営判断では、自分一人の感覚だけに頼らないことが大切です。
まず明確にすべきは「自分は何を守りたいのか」
経営者が変化に向き合う際、最初にやるべきことは「何を守りたいのか」を明確にすることです。
たとえば、守りたいものには次のようなものがあります。
- 自分や自分の家族の生活を守りたい
- 社員の生活を守りたい
- お客様を守りたい
- 仕入先との関係を守りたい
- 自社が培ってきた技術を守りたい
- 地域や業界における役割を守りたい
ここで大切なのは、どれが正解ということではありません。経営者ご自身が、本音として何を一番守りたいのかを明確にすることです。
もし、「自分や自分の家族の生活を守る」ことを最優先にするなら、事業を大幅に縮小することも選択肢になります。
一方で、「社員の生活を守りたい」と考えるなら、自分としてはあまり気乗りしなくても、新しい取引先を確保したり、協力してくれる事業パートナーを探したりする必要が出てきます。
また、「お客様」や「仕入先」や「自社の技術」を守りたいのであれば、その価値を次の時代にどう活かすかを考える必要があります。
守る対象が、自分や家族から、社員、お客様、取引先、地域へと広がるほど、共感する人や賛同する人は増えていきます。そして、共感する人が増えれば、変化に協力してくれる人も増えていきます。
だからこそ、経営者がまず明確にすべきなのは、「何を変えるか」の前に、「何を守りたいのか」なのです。
中小企業が激動期を乗り切るには自社と顧客の棚卸しが欠かせない
何を守ることを優先したいのかが明確になったら、次に必要なのは棚卸しです。
ここでいう棚卸しとは、在庫の確認ではありません。自社のリソースと、お客様のニーズを整理することです。
商売は、単純化すればマッチングです。
- 自社が得意なこと
- 自社ができること
- 自社が持っているもの
これらと、
- お客様が苦手なこと
- お客様が困っていること
- お客様が欲しいもの
がうまく噛み合った時、売上が生まれます。
さらに、その売上から利益が確保できているなら、そのマッチングは一定程度うまく機能していると言えます。
しかし、自社が得意なことやできることは、時間とともに変化します。そして、お客様が困っていることや欲しいものは、時代とともにさらに大きく変化します。
つまり、これまではうまく機能していたマッチングが、これからも同じように機能するとは限らないのです。
だからこそ、経営者は定期的に次の問いを確認する必要があります。
- 自社は今、何が得意なのか。
- 自社は今、何ができるのか。
- 自社には今、どのような資源があるのか。
- お客様は今、何に困っているのか。
- お客様は今、何を求めているのか。
- 誰に、何を提供すれば、価値を感じてもらえるのか。
この棚卸しを行うことで、売り先を変えるべきか、商品やサービスの見せ方を変えるべきか、事業のやり方を見直すべきかが見えてきます。
自社と顧客の棚卸しは一人でやらない方が効果的
「自分が何を守りたいのか」は、経営者ご自身の中にしか正解がありません。これは、他人が決めるものではありません。
しかし、自社とお客様の棚卸しについては、自分一人だけで取り組まない方が効果的です。なぜなら、自社の強みやお客様のニーズは、経営者本人には見えにくいことがあるからです。
自分たちにとっては当たり前にできていることが、実はお客様にとって大きな価値になっていることもあります。逆に、自社では強みだと思っていたことが、今のお客様にはそれほど求められていないこともあります。
だからこそ、社員や外部の第三者を交えて、自社と顧客を客観的に見直すことが重要です。
社内に率直な意見を言える人がいれば、その人の視点を取り入れる。
社内だけでは難しければ、外部の専門家や信頼できる第三者と一緒に整理する。
このような取り組みによって、経営者一人では気づけなかった選択肢が見えてきます。
足利尊氏に見る「マッチング」の力
「極楽征夷大将軍」の中で考えると、「お客様」は武士です。そして、その武士のニーズを把握していたのが、足利直義や高師直でした。
足利尊氏自身は、自ら自分の棚卸しをしていたわけではありません。しかし、彼に仕える二人の分析では、尊氏には次のような特徴がありました。
- 得意なことは、いざという時に自分を捨てて行動できること
- できることは、戦の場面などで流れを読み取ること
- 持っているものは、源氏の血筋
これらが、当時の武士たちが求めていたものとうまく結びついた。そう考えると、足利尊氏は本人の意思とは別に、結果としてマッチングがうまくいった人物だったのかもしれません。
歴史小説には、事実とは異なる要素も含まれています。しかし、人は何を大切にし、どのように迷い、どのように行動するのかという点では、現代の経営にも参考になることが多くあります。
激動の時代こそ経営者の判断基準を言語化する
激動の時代には、経営者が変化を避け続けることはできません。
- 売り先を変える。
- 商品やサービスの提供方法を変える。
- 業務のやり方を変える。
- 時には、事業そのものの形を変える。
そのような判断が必要になる場面は、今後ますます増えていきます。ただし、変化とは、何でもかんでも変えることではありません。本当に重要なのは、守るべきものを明確にした上で、変えるべきものを変えることです。
経営者が「自分は何を守りたいのか」を言語化し、自社とお客様の棚卸しを行う。その上で、今の時代に合ったマッチングを見つけ直す。
これが、中小企業が激動期を乗り切るための第一歩です。
足利尊氏は、表面的には立場を変えながらも、根っこの部分では武士の利益を守るという軸を持っていたと見ることができます。
会社経営も同じです。
変えることを恐れず、しかし、守るべき軸は見失わない。その判断基準を持てるかどうかが、これからの経営者に問われています。
★関連する記事は「過去の経営判断を未来に活かす」

経営判断を「学べる記録」に変えるには、事実と解釈を分ける視点が必要です。
ヒーズでは、弊社の日頃の活動内容や基本的な考え方をご理解いただくために、専門コラム「知恵の和ノート」を毎週1回更新しており、その内容等を無料メールマガジンとして、お届けしています。
上記のフォームにご登録いただければ、最新発行分より弊社のメールマガジンをお送りさせていただきます。お気軽にご登録いただければ幸いです。