ミセルチカラの磨き方

2026/07/17

新市場開拓を成功させる「利益・資金繰り・提供価値」の設計

カテゴリー :営業

売上が伸びてもお金が残らない新規事業、その原因はどこにあるのか

新規事業や新市場の開拓に取り組み、売上は伸びたものの、思ったほど利益が残らず、かえって資金繰りが苦しくなる会社があります。

その原因の多くは、販売先や販売方法を変えることに意識が向き、新しい事業の収益構造やキャッシュフロー、顧客に提供する価値を十分に検討できていないことにあります。

 

ECモールへの出店、自社商品の開発、法人向け市場への進出など、新しい販路を開拓する方法はさまざまです。しかし、市場を広げれば、必ず会社の収益が改善するわけではありません。

新市場開拓を成功させるには、

  1. 利益を確保できるか
  2. キャッシュフローは回るのか
  3. 誰に、どのような価値を提供するのか

という3つの視点を、別々ではなく一体で設計する必要があります。

 

本記事では、実際の中小企業で起きた事例を踏まえながら、新規事業や販路拡大で失敗しないために、経営者が事前に確認すべきポイントと、継続・軌道修正を判断する基準について解説します。

 

既存事業が伸び悩んだときに新市場を開拓する理由

これまで会社を支えてきた事業が伸び悩んでくると、経営者は新しい市場の開拓を考えます。

例えば、次のような取り組みです。

  • 下請け中心の事業から、自社オリジナル商品の販売へ進出する
  • 対面販売から、インターネットを活用した販売へ切り替える
  • 個人向けの商品やサービスを、法人向けに展開する

 

売る商品が同じであっても、販売先や販売方法が変われば、収益構造や必要な運転資金、顧客から選ばれる理由も変わります。

そのため、新しい市場への進出には、成功する会社と、売上は伸びても経営が苦しくなる会社が生まれます。

 

うまくいかないケースでは、新規事業を始める前に、次の3点を十分に検討できていないことが少なくありません。

  1. 必要な利益を確保できるか
  2. キャッシュフローが回るか
  3. 誰に、どのような価値を提供するか

新市場開拓では、この3つを三位一体で考えることが重要です。

 

新規事業で利益を確保できるかを確認する

 

売上高が伸びても利益が増えるとは限らない

ある会社では、電話営業を中心に事業を伸ばしてきました。

しかし、個人情報保護の観点から電話番号を入手しにくくなったことに加え、電話営業を担ってきたベテラン社員の高齢化も進んでいました。

そこで、数年前からインターネットによる販売を開始。楽天市場やAmazonなどのECモールにも出店し、売上高は順調に伸びていきました。

 

ところが、経営者が期待していたほど、会社にお金が残りません。

そこで部門別の収益構造を分析したところ、ECモールで販売する場合は、販売手数料や決済手数料、広告宣伝費などが差し引かれるため、売上高の割に利益率が低いことが分かりました。

 

新規事業は実質的な粗利で判断する

この会社では、インターネット販売の売上高に注目する一方で、各種手数料や広告費を差し引いた後の実質的な粗利を十分に計算していませんでした。

その結果、既存事業の売上減少をEC販売で補うことはできたものの、会社全体の収益は、かえって悪化していたのです。

 

新規事業を評価するときは、単に「いくら売れたか」を見るだけでは不十分です。販売価格から、次のような費用を差し引いて考える必要があります。

  • 商品の仕入原価や製造原価
  • 販売手数料や決済手数料
  • 広告宣伝費
  • 配送費や梱包費
  • 新規事業に追加で必要となる人件費

売上高ではなく、最終的に会社へいくら利益が残るのかを把握することが、新市場開拓の第一歩です。

 

新規事業のキャッシュフローは回るのか

 

利益が出ても資金繰りが楽になるとは限らない

必要な利益を確保できる見込みがあっても、キャッシュフローが回るとは限りません。

 

ある会社では、下請け事業で培った技術を活かし、自社のオリジナル商品を開発しました。

社長自ら営業に取り組んだ結果、百貨店での販売が決まり、その後は東京だけでなく、関西や九州にも販路を広げることができました。

売上高は順調に伸びていきましたが、会社の資金繰りは、なかなか楽になりませんでした。

 

販路拡大による在庫負担を見落とさない

原因を分析したところ、最も大きな問題は在庫負担でした。

百貨店では品切れを避けるため、販売量に対して、ある程度余裕を持った在庫を求められます。商品が売れれば一定の利益は確保できますが、商品を販売する前に、材料費や製造費などの資金を先に支払わなければなりません。

 

つまり、この事業は、売上が増えるほど先行して必要となる資金も増える構造になっていたのです。販路を増やすたびに各店舗向けの在庫が必要になるため、売上高は伸びているのに、手元資金は減っていきます。

利益が出ていることと、資金繰りが安定していることは同じではありません。

 

新規事業を始める際には、損益計算だけでなく、次の点も確認する必要があります。

  • 仕入代金や製造費をいつ支払うのか
  • 売上代金はいつ入金されるのか
  • どの程度の在庫を持つ必要があるのか
  • 売上が増えた場合、運転資金はいくら増えるのか

新市場を開拓するほど資金繰りが苦しくならないよう、事前にキャッシュフローをシミュレーションしておくことが大切です。

 

誰にどのような価値を提供するのかを明確にする

 

既存の販売力に頼ると提供価値が曖昧になりやすい

長年、自社商品を購入してくれるお客様がいる。

定期的に発注してくれる取引先がいる。

営業が得意な社員がいる。

 

このような会社では、自社の商品を通して、誰に、どのような価値を提供するのかが、十分に言語化されていないことがあります。

既存の取引先や営業担当者の力で商品が売れてきたため、顧客が自社を選ぶ理由を、会社として深く考える必要がなかったからです。

 

ECモールや百貨店など、他社の販売力を活用する場合も同様です。

楽天市場やAmazonには、多くの利用者を集める力があります。以前ほどではないにせよ、百貨店にも一定の集客力と信用力があります。そのため、手数料や在庫負担といった問題はあっても、良い商品を適切な価格で提供できれば、一定の売上を確保できる可能性があります。

 

自社で直接販売するには価値の言語化が欠かせない

一方、自社のECサイトや営業活動を通じて直接販売する場合は、他社の集客力に頼ることができません。

 

「誰に、どのような価値を提供するのか」が曖昧なままでは、次のような判断ができなくなります。

  • どのようなホームページを作るのか
  • どのような広告を、どこに出すのか
  • SNSでどのような情報を発信するのか
  • 競合商品との違いをどのように伝えるのか
  • 顧客にどのような言葉で購入を促すのか

 

どれほど品質の良い商品であっても、必要としている人に、その価値が伝わらなければ売れません。

自社で直接販売する場合には、商品を作ること以上に、顧客を理解し、価値を伝える仕組みを作ることが必要です。

 

前述のECモールで売上を伸ばした会社は、現在、利益率を改善するために自社ECサイトでの販売に力を入れています。

また、百貨店への販路開拓を進めた会社では、在庫負担の少ない、自社による直接販売に注力しています。

ただし、販売方法を変えるだけでは十分ではありません。自社が選ばれる理由を言葉にし、その価値をホームページや広告、営業活動を通じて一貫して伝える必要があります。

 

利益・資金繰り・提供価値を三位一体で設計する

会社によっては、資金繰りは経理や財務の仕事、売上を上げるのは営業やマーケティングの仕事という形で、業務が分断されています。

しかし、既存事業が伸び悩み、新しい市場を開拓する場合には、それぞれを別々に考えることはできません。

 

どれほど商品が売れても、十分な利益が残らなければ、新規事業を継続することは困難です。

利益が確保できても、在庫や入金条件によって資金繰りが回らなければ、会社全体の経営を圧迫します。

利益と資金繰りに問題がなくても、顧客に提供する価値が曖昧であれば、継続的に売上を伸ばすことはできません。

 

したがって、新規事業や新市場開拓では、

  1. 利益を確保できるか
  2. キャッシュフローは回るか
  3. 誰に、どのような価値を提供するか

を一つの事業設計として考える必要があります。

営業、マーケティング、経理、財務が情報を共有し、会社全体で新規事業の状態を確認することが重要です。

 

新市場開拓では損失の上限と撤退基準を決める

新しい市場の開拓には、不確定要素が数多くあります。事前に綿密な計画を立てても、実際に始めてみなければ分からないことも少なくありません。

 

だからこそ、新規事業を始める前に、次の基準を設定しておく必要があります。

  • いくらまでなら損失を出しても会社の経営に影響しないか
  • どの数字を使って事業の成果を検証するか
  • いつまでに継続、軌道修正、撤退を判断するか
  • 追加投資を行う条件は何か

 

うまくいっている経営者は、最初から大きな投資をするのではなく、小さく始めて反応を確認します。

そして、「この事業は伸びる可能性がある」と判断した段階で、人やお金を思い切って投入します。

 

反対に、期待した成果が出なければ、早い段階で問題点を洗い出し、商品や販売方法、対象顧客を見直します。

新規事業を一度始めると、「もう少し頑張れば良くなるかもしれない」と考えがちです。しかし、明確な判断基準がないまま事業を続けると、損失が膨らみ、撤退のタイミングを失う恐れがあります。

 

新規事業が既存事業の足を引っ張る状況を避ける

新市場開拓は、既存事業の落ち込みを補い、会社に新しい成長の機会をもたらす重要な取り組みです。

しかし、売上高だけを追いかけると、利益率の低下や在庫の増加、広告費の膨張によって、会社全体の収益や資金繰りを悪化させることがあります。

 

新規事業を成功させるために必要なのは、最初から完璧な計画を作ることではありません。利益、キャッシュフロー、提供価値の3つを確認しながら、小さく始め、数字と顧客の反応を基に軌道修正することです。

問題点に早く気づくことができれば、販売先や価格、商品、広告、在庫の持ち方などを見直すことができます。

 

既存事業の落ち込みに加えて、新規事業が会社の足をさらに引っ張る事態は、絶対に避けなければなりません。

新しい市場へ踏み出すときこそ、売上の可能性だけではなく、利益と資金繰り、そして顧客に提供する価値を一体で設計しましょう。


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