知恵の和ノート
「あうんの呼吸」は危険信号?中小企業が成長するための「言葉の定義」の整え方(第585話)
会社の成長を妨げる大きな原因の一つは、「言葉の定義が曖昧なまま進んでいること」。「営業」「信頼」「お客様第一」など、誰もが分かったつもりで使う言葉ほど注意しよう。
「うちの会社って、なんか『あうんの呼吸』で動いてるよね。」
一見するとチームワークが良さそうなこの状態、実は経営の「成長ブレーキ」になっている可能性があります。
なぜなら、「あうんの呼吸」で成り立っている組織というのは、裏を返せば「言葉の定義が曖昧」ということだからです。社内で使われる言葉が人によって違う意味で使われていたら、行動や判断にもズレが出るのは当然です。
たとえば、「営業」という言葉。
ある人にとっては「契約を取ってくる人」、別の人にとっては「売上さえ上げればよい人」、さらに別の人にとっては「フォローまで含めた顧客対応の責任者」かもしれません。
このズレが小さいうちは、表面化しません。ところが、ある日、営業担当が「契約さえ取ればいい」と思って無理な条件で契約を取り、事務側が赤字処理に追われたり、回収が滞って資金繰りが悪化したりすることが起こります。
本人は悪気がない。むしろ「数字を上げて評価されるはず」と信じて頑張った結果なのに、社内では責められる─この構図、実は多くの会社で起きています。
ポイントは、「誰が悪いか」ではなく、「言葉の定義がバラバラだった」ことにあります。
実際、ある企業では「営業とは、契約を取ること」だった定義を見直し、「営業とは、契約から入金完了まで責任を持つ仕事」と再定義しました。
最初は営業担当から反発が出ました。「そんなの営業の仕事じゃない」と。しかし、再定義の背景や目的を共有することで次第に納得が広がり、結果として回収トラブルが減少。売上は変わらなくてもキャッシュフローが安定するようになりました。
言葉の定義を明確にするとは、単に辞書的な意味を共有するという話ではありません。
- その言葉が社内でどんな範囲を指しているのか
- どんな行動や成果を期待しているのか
- どんな価値基準で評価するのか
これらを明確にし、すべての社員が同じ認識で行動できるようにすることです。
たとえば、「お客様の満足」といった一見美しい言葉でも、ある社員は「笑顔になってもらうこと」と思い、別の社員は「価格を安くすること」と捉えていたら、戦略や接客方針にズレが生じます。
このような見えないズレが積み重なると、会社全体のパフォーマンスにブレーキがかかります。
一方で、成長し続ける会社は、言葉を整えることに非常に敏感です。
「営業とは何か」「顧客とは誰か」「利益とはどう生まれるか」など、当たり前に聞こえる言葉を、当たり前にスルーせず、丁寧に定義し、共通言語として社内に浸透させています。
そして、社長自身がその旗振り役を担っています。
経営者にありがちなのが、「そんなこと言わなくても分かるだろ」「普通に考えたら分かるよね」という前提で社員に任せてしまうこと。けれども、その普通が人によって違うから、問題が起きるのです。
特に創業期を経て組織が急拡大しているフェーズでは、過去の「あうんの呼吸」が通じなくなります。創業メンバーとは言わずとも通じた話が、新しいメンバーにはまったく伝わらない。このギャップを埋めるには、「言葉を揃える」しかありません。
では、どこから始めるべきか?
まずは、あなた自身が「言葉の定義を明確にすることの価値」を認識すること。そして、自社の経営にとって重要なキーワード─たとえば「営業」「信頼」「お客様第一」「利益」「チーム」などを一つずつ取り上げて、
- その言葉は、誰にとって、どのような意味か?
- どんな行動を生み出してほしいのか?
- 何を成果とみなすのか?
を、社員と一緒に言語化するワークショップを開いてみましょう。
たったこれだけのことですが、「営業とは、こういう仕事だ」「お客様第一って、こういう意味だ」という共通認識ができると、社内の動きが見違えるほどスムーズになります。
社員の行動も、経営者の意図に沿って整っていきます。社内トラブルも減り、チームの一体感が生まれ、結果として会社全体の成長スピードが加速するのです。
言葉を整えることは、地味ですが最強の経営施策。
ぜひ、今日から一つひとつの「当たり前の言葉」に目を向けてみてください。
★なお、言葉を整えるなら、感情や思考と紐づけることが有効です。
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社員との会話で主旨があまり伝わっていないと感じているなら、「話すテーマを一つに絞る」「話す順番や構成を予め決めておく」「話をする相手のレベルに合わせて話す内容を変える」といった工夫を重ねましょう。
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