知恵の和ノート
売上はあるのに資金が減る会社へ|利益改善に必要な粗利額とキャッシュフローの考え方(第639話)

利益改善は、売上を追う前に必要な粗利額をつかむこと。数字を起点に、自社の価値と選ぶべき顧客を見直すことが勝ち筋になる。
売上はあるのに、なぜお金が残らないのか
売上はあるのに、なぜお金が残らないのか。
中小企業の経営では、このような悩みを抱えている会社が少なくありません。仕事はある。売上も一定程度ある。社員も忙しく動いている。それなのに、月末になると現預金残高が思ったほど増えていない。むしろ、少しずつ減っている。
このような場合、単に「売上をもっと増やそう」と考えるだけでは、根本的な利益改善にはつながりません。
なぜなら、会社に必要なのは売上そのものではなく、最終的に会社に残る利益であり、さらに言えば、借入金の返済や固定費の支払いを行った後にも手元に残るキャッシュフローだからです。
利益改善を考える際には、まず必要な利益額を把握すること。その上で、その利益を実現するために、売上高・粗利額・粗利率・販売数量を数字で確認すること。そして最後に、その数字を実現するための提供価値と販売対象先を明確にすることが重要です。
利益改善の第一歩は「必要な粗利額」を把握すること
会社の利益改善を考える時、最初に確認すべきなのは「いくら売るか」ではありません。まず確認すべきなのは、「会社を継続するために、毎月いくらの粗利額が必要なのか」です。
例えば、毎月の数字が次のような会社があるとします。
売上高:50,000千円
売上原価:35,000千円
固定的にかかる費用:10,000千円
借入金の元金返済額:10,000千円
この場合、粗利額は次の通りです。
50,000千円-35,000千円=15,000千円
粗利率は30%です。
一見すると、粗利額15,000千円があり、固定費10,000千円を支払っても利益は残るように見えます。しかし、資金繰りの観点では、ここに借入金の元金返済額も加えて考える必要があります。
15,000千円-10,000千円-10,000千円=▲5,000千円
つまり、この利益構造のままでは、計算上、毎月5,000千円ずつ現預金残高が減っていくことになります。
もちろん、実際の資金繰りでは、売掛金の回収条件や買掛金の支払条件、在庫の増減なども影響します。しかし、ざっくり見てもこの状態であれば、「売上はあるのにお金が残らない」という状況に陥る可能性が高いのです。
キャッシュフロー改善にはリスケだけでなく利益構造の見直しが必要
このような会社の場合、銀行と交渉して、借入金の返済額を一時的に減らす、いわゆるリスケを行う方法もあります。
リスケによって毎月の返済負担が軽くなれば、短期的な資金繰りは改善します。しかし、リスケには金融機関との関係や今後の資金調達への影響など、一定のデメリットもあります。
そのため、リスケを選択しない、またはリスケだけに頼らないのであれば、会社としては利益構造そのものを見直す必要があります。
先ほどの例で言えば、毎月5,000千円の資金不足を解消するためには、少なくとも粗利額を15,000千円から20,000千円に増やすことが必要です。
つまり、利益改善の目標は「売上を増やすこと」ではなく、まずは「必要な粗利額を確保すること」なのです。
粗利額を増やすには「売上高」と「粗利率」の両面から考える
では、粗利額を15,000千円から20,000千円に増やすには、どうすればよいのでしょうか。
大きく分けると、方法は2つあります。
1つ目は、売上高を増やすことです。
2つ目は、粗利率を上げることです。
例えば、粗利率が30%のままであれば、粗利額20,000千円を確保するためには、売上高を66,667千円まで増やす必要があります。
66,667千円×30%=20,000千円
一方、売上高が50,000千円のままであっても、粗利率を40%まで上げることができれば、同じく粗利額20,000千円を確保できます。
50,000千円×40%=20,000千円
このように、利益改善では「売上高を増やすのか」「粗利率を上げるのか」という両面から検討することが大切です。
どちらが正しく、どちらが間違っているという話ではありません。実際には、売上高を少し増やしながら、粗利率も少し改善するというように、両方を組み合わせて考えるケースも多くあります。
ただし、最初の段階では、
- 粗利率はそのままで販売数量を増やす
- 売上高はそのままで粗利率を上げる
という2つのパターンを分けてシミュレーションすることをお勧めしています。数字を分けて考えることで、経営者として何を優先すべきかが見えやすくなるからです。
数字のシミュレーションが経営判断を明確にする
先日の打ち合わせでも、クライアントさんにこの2つのシミュレーションをお示ししました。
1つは、粗利率を変えずに売上高を増やすパターン。もう1つは、売上高を変えずに粗利率を上げるパターンです。
その結果、経営者は「これ以上、粗利率をすぐに引き上げるのは難しい。したがって、当面は新しい取引先を増やすことに力を入れる」と決断されました。
ここで大切なのは、数字を見たからこそ、経営判断が明確になったという点です。
利益改善の話を感覚だけで進めると、「もっと売ろう」「値上げしよう」「原価を下げよう」といった抽象的な議論になりがちです。しかし、必要な粗利額が明確になり、そのために必要な売上高や粗利率が分かると、経営者は具体的な打ち手を選びやすくなります。
数字は、経営者を縛るものではありません。むしろ、経営判断を絞り込むための材料です。
利益改善の実行には「提供価値」と「販売対象先」の言語化が欠かせない
ただし、難しいのはここからです。
必要な利益額が分かった。
必要な粗利額も分かった。
売上高を増やすのか、粗利率を上げるのかも決めた。
それでも、実際に利益改善を実行するのは簡単ではありません。
新しい販売先を開拓する。
値上げをしても販売量を落とさない。
新しい仕入先を開拓して原価を下げる。
どれも、言うほど簡単ではありません。
自社のことや自社の商品を知らない相手には、まず知ってもらう必要があります。値上げをすれば、「この価格だから買っていた」というお客様の一部が離れる可能性もあります。また、仕入価格が安い新しい仕入先や外注先が、これまでと同じ品質を提供してくれるとは限りません。
だからこそ、利益改善を実行する前に、会社として次の2つを明確にする必要があります。
- この商品やサービスが提供している価値は何か
- その価値を理解し、お金を払ってくれるお客様は誰か
この2つが曖昧なままでは、新規開拓も、値上げも、原価改善も、社内で混乱を生みやすくなります。
壁にぶつかった時こそ、自社の強みが問われる
新しい取り組みを始めると、最初は必ず壁にぶつかります。
新規先に営業をしても、思うように反応がない。
値上げをした結果、お客様の数が減る。
仕入価格は下がったものの、品質面で不安が残る。
このようなことは、利益改善の取り組みではよく起こります。
その際、自社の提供価値や販売対象先が曖昧だと、「やはり値上げは無理だった」「新規開拓は難しい」「原価を下げると品質が落ちる」といった結論に流れやすくなります。
しかし、本当に見直すべきなのは、取り組みそのものではなく、提供価値の伝え方や、狙うべきお客様の設定かもしれません。
あるクライアントさんでは、主要な取引先が、競合他社よりも見積金額が高いにもかかわらず、自社に継続して発注してくれる理由を分析しました。その結果、自社の強みが明確になり、その強みを活かした提案書を作成して、新規顧客の開拓に取り組んでおられます。
また、別のクライアントさんでは、競合他社との競争が激しい中で、創業以来続けてきた仕事への姿勢そのものに、お客様が価値を感じていることが分かりました。そこで、その姿勢を前面に出した情報発信に力を入れるようになりました。
つまり、利益改善とは、単なる数字合わせではありません。数字を起点にしながら、自社の強みや価値を見直す取り組みでもあるのです。
利益改善は「数字」と「価値」をつなげて考える
中小企業の利益改善では、まず必要な利益額を数字でつかむことが欠かせません。
売上高はいくら必要なのか。
粗利額はいくら必要なのか。
粗利率をどこまで上げる必要があるのか。
借入返済を含めたキャッシュフローはどうなっているのか。
これらを確認せずに、売上アップや値上げ、新規開拓だけを進めても、期待した成果につながらないことがあります。
一方で、数字だけを見ていても利益改善は進みません。必要な数字を実現するには、自社の商品やサービスが提供している価値を明確にし、その価値を必要としているお客様に届ける必要があります。
まずは、必要な利益額を数字でつかむこと。
次に、粗利額・粗利率・売上高の関係を整理すること。
そして、自社の足元やこれまで積み重ねてきた強みを棚卸しすること。
その先に、会社の利益改善につながる勝ち筋が見えてきます。
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