知恵の和ノート
社長が財務を手放せない理由|中小企業に必要な資金繰り人材の育て方(第644話)
経理が過去のお金を整える仕事なら、財務は未来のお金を読む仕事。中小企業こそ、財務を分解し、社員に任せる仕組みが必要だ。

中小企業では、経理の仕事は社員に任せていても、財務の仕事は社長が一人で抱えているケースが少なくありません。
経理は、過去から現在までのお金の動きを整理する仕事です。一方、財務は、現在から未来に向けてお金の動きを読み、資金繰りや成長投資の判断につなげる仕事です。
そのため、財務には会計知識だけでなく、営業、仕入、製造、在庫、人件費など、会社全体の仕事の流れを理解する力が求められます。
だからこそ、「経理担当者にそのまま財務まで任せるのは難しい」と感じ、結果として社長が忙しい中で資金繰りや資金計画を見ている会社も多いのではないでしょうか。
しかし、財務の仕事をすべて社長が抱え続けていると、経営判断の後に必要な改善策の実行や、将来に向けた打ち手を考える時間が不足します。
大切なのは、いきなり社員に高度な財務判断を求めることではありません。まずは「材料を集める」「仮説を立てる」「対策を考える」という3つの仕事に分解し、段階的に任せていくことです。
本記事では、中小企業の社長が財務を一人で抱え込まないために、経理担当者を資金繰り人材へ育てる具体的なステップを解説します。
経理と財務の違いを理解する
経理と財務は、どちらも会社のお金に関わる仕事です。ただし、その役割は大きく異なります。
経理は、会社の過去から現在までのお金の動きを整理する仕事です。請求書、領収書、入出金、売上、仕入、経費などをもとに、会社で起きたお金の動きを正しく記録します。
一方、財務は、会社の現在から未来に向けたお金の動きを考える仕事です。今後いくらお金が入ってくるのか。いつ、いくら支払いが発生するのか。資金が不足する可能性はないか。成長投資にどれだけ資金を使えるのか。
このように、財務は未来の資金繰りや経営判断に直結する仕事です。
中小企業においては、経理の仕事は社員が担っていても、財務の仕事は担当者がいなかったり、社長自身が対応していたりするケースが多く見られます。
なぜ中小企業では社長が財務を抱えやすいのか
経理の仕事は、会計ソフトや顧問税理士のサポートを活用することで、未経験の人でも真面目に取り組めば、比較的進めやすい仕事です。
もちろん、正確性や継続性は求められます。けれども、請求書や領収書、通帳の動きなど、必要な資料がそろえば、ある程度正解を導き出すことができます。
一方、財務はそう簡単ではありません。財務には、経理の知識に加えて、会社全体の仕事の流れを理解する力が求められます。
営業部門の受注見込み、入金予定、仕入のタイミング、製造部門の生産計画、在庫の状況、人件費や外注費の増減。こうした情報を把握しなければ、未来のお金の動きを正しく読むことはできません。
メーカーであれば、営業だけでなく、製造部門や仕入部門とのコミュニケーションも必要になります。サービス業であっても、案件の進捗や人員配置、外注費の発生時期などを確認しなければ、資金繰りの見通しは立てにくくなります。
そのため、経理担当者にそのまま財務の仕事を任せられないという状況が生まれます。
結果として、経理の専門知識を十分に持っていない社長が、忙しい中で時間を見つけて財務を見ている会社も少なくありません。
財務強化は会社の成長に欠かせない
先日、あるクライアントさんから、経理担当者の財務スキルをもう少し高めるために協力してほしい、というご依頼がありました。
その会社の社長は技術畑のご出身です。会社の数字の取りまとめは経理担当者に任せておられますが、今後さらに事業を成長軌道に乗せるためには、財務の強化が必要だと考えておられました。
これは、多くの中小企業に共通する課題です。
会社を安定して成長させるには、売上を伸ばすだけでは不十分です。利益が出ていても、お金の回収が遅れたり、仕入や人件費の支払いが先行したりすれば、資金繰りは苦しくなります。
また、新規事業や設備投資、人材採用を進める際にも、「今、どこまで資金を使えるのか」「何ヵ月後に資金が不足する可能性があるのか」を見通す力が必要です。
つまり、財務は単なるお金の管理ではありません。会社の成長を支える経営機能の一つです。
財務の仕事は3つに分解できる
財務の仕事を分解すると、大きく3つに分かれます。
- 材料を集めること
- 仮説を立てること
- 対策を考えること
この3つを一人ですべて担おうとすると、負担は大きくなります。特に社長がすべてを抱えてしまうと、本来時間をかけるべき経営判断や改善策の実行に手が回らなくなります。
だからこそ、財務の仕事を分解し、どこまでを社員に任せるのかを明確にすることが大切です。
ステップ1:資金繰りに必要な材料を集める
財務の第一歩は、必要な材料を集めることです。
経理であれば、請求書、領収書、通帳の動き、現預金の残高などが分かれば、過去に起きたお金の動きを整理できます。しかし、財務の場合は、未来の予測が仕事に含まれます。そのため、経理資料だけでは不十分です。
営業部門からは、来月以降の売上見込みや入金予定を確認する必要があります。仕入部門からは、今後の仕入予定や支払条件を確認する必要があります。製造部門からは、生産計画や外注費の発生時期を聞く必要があるかもしれません。
つまり、財務に必要な情報は、会社全体に散らばっています。まずは、必要な材料を集められるかどうか。これが、経理担当者を財務人材へ育てる最初のポイントです。
ここで大切なのは、いきなり判断まで求めないことです。まずは、どの部署から、どの情報を、いつまでに集めるのか。その型を作ることから始めます。
ステップ2:集めた材料から仮説を立てる
次のステップは、集めた材料をもとに仮説を立てることです。
財務では、同じ情報を見ても、どのような前提条件を置くかによって、出てくる数字が変わります。
たとえば、営業部門から「来月は3,000万円の売上見込みです」という情報が上がってきたとします。
このとき、そのまま3,000万円を売上として見込むのか。それとも、受注確度や過去の実績を踏まえて、70%の掛け目をかけ、2,100万円として見込むのか。
この判断によって、資金繰りの見通しは大きく変わります。
もちろん、どちらが絶対に正しいという話ではありません。大切なのは、どのような前提条件に基づいて数字を作っているのかを明確にすることです。
「営業がそう言ったから」
「何となくこれくらいだと思ったから」
では、財務の数字としては弱くなります。
根拠のある仮説を立てること。前提条件を言葉で説明できること。これが、財務人材に求められる重要な力です。
ステップ3:資金繰り改善の対策を考える
材料を集め、一定の仮説に基づいて数字を作成する。その結果、特に問題がなければ、当面の資金繰りは安定していると判断できます。
しかし、時には「3ヵ月後にはお金が足りなくなるかもしれない」という状況が見えてくることもあります。その場合は、資金繰り改善のための対策を考えなければなりません。
たとえば、銀行から資金を借りる。売上をさらに上げる。仕入価格を調整する。無駄な経費を減らす。資産の一部を売却する。あるいは、入金条件や支払条件の見直しが必要になることもあります。
ここまで来ると、財務の仕事は単なる数字づくりではなく、経営判断に近づいていきます。そのため、最終的な判断は社長が行う必要があります。
ただし、社員が必要な材料を集め、根拠ある仮説に基づいて数字を作ってくれていれば、社長はより早く、より的確に判断できます。
財務人材は段階的に育てる
財務の仕事のうち、少なくとも最初の2つである「材料を集めること」と「仮説を立てること」は、可能であれば社員に任せるのが望ましいです。
もちろん、3つ目の「対策を考えること」まで社員が担ってくれれば理想です。しかし、最初からそこまで求める必要はありません。
一つの目安としては、次のように考えると分かりやすいです。
- 担当者は、材料を集める。
- 課長は、材料を集めた上で、仮説を立てる。
- 部長は、材料を集め、仮説を立て、対策まで考える。
このように、役職や経験に応じて求めるレベルを分けることで、財務人材の育成は進めやすくなります。
気をつけたいのは、一気に部長クラスの結果を求めないことです。
社長としては、「対策まで考えてほしい」と思うかもしれません。そのお気持ちはよく分かります。しかし、社員がまだ材料集めの段階でつまずいているのに、いきなり資金繰り改善策まで求めると、かえって育成は進みません。
人材育成はステップ・バイ・ステップです。
まずは材料を正しく集める。次に、前提条件を置いて仮説を立てる。そして、少しずつ対策を考えられるようにする。
この順番で育てていくことが大切です。
社長が財務を抱え続ける会社の課題
社長が財務をすべて抱え続けていると、会社にはいくつかの課題が生まれます。
一つは、社長の時間が奪われることです。
材料を集めるところから、数字を作り、資金繰りを確認し、対策を考えるところまで、すべて社長が担っていると、経営判断後の実行に時間を使えません。
もう一つは、財務の仕事が属人化することです。
社長だけが資金繰りの全体像を把握している状態では、社員が会社のお金の流れを理解できません。その結果、営業、仕入、製造、経費の使い方などが、資金繰りとつながらないまま進んでしまいます。
さらに、社長が忙しくなるほど、財務の確認が後回しになるリスクもあります。
財務は、問題が表面化してから対応するのでは遅い仕事です。3ヵ月後、6ヵ月後のお金の動きを早めに把握し、先手を打つことに意味があります。
だからこそ、社長一人で抱えるのではなく、社員を巻き込みながら財務の仕組みを作る必要があります。
経理担当者を資金繰り人材へ育てるために
経理担当者を財務人材へ育てるには、まず「経理の延長線上に財務がある」と考えすぎないことです。
経理は、正確に処理する力が求められます。一方、財務は、情報を集め、前提条件を置き、未来を予測する力が求められます。
つまり、求められる能力が違います。その違いを理解した上で、最初は小さな仕事から任せることが重要です。
たとえば、売上見込みの情報を営業から集める。仕入予定を確認する。入金予定と支払予定を一覧にする。過去の実績をもとに、売上見込みに掛け目を設定する。こうした仕事を積み重ねることで、経理担当者は少しずつ会社全体のお金の流れを理解できるようになります。
そして、材料集めと仮説づくりができるようになれば、社長は数字の細かい取りまとめから少しずつ離れ、経営判断に集中しやすくなります。
外部リソースを活用することも選択肢
財務の仕事は、会社によって必要な情報も、資金繰りの特徴も異なります。
売上の入金サイトが長い会社。仕入の支払いが先行する会社。在庫を多く抱える会社。人件費の比率が高い会社。設備投資が定期的に必要な会社。
それぞれの会社によって、見るべきポイントは違います。そのため、経理の仕事よりも財務の仕事の方が複雑に感じられるかもしれません。
また、社長自身が財務を教えることに難しさを感じるケースもあります。その場合は、外部のリソースを活用することも有効です。
大切なのは、社長がいつまでも一人で財務を抱え込まないことです。
外部の専門家の力を借りながら、社内の経理担当者や幹部候補に財務の考え方を伝えていく。そうすることで、会社の中に資金繰りを考えられる人材が育っていきます。
財務に強い会社は、社長の時間の使い方が変わる
財務に強い会社とは、社長がすべての数字を一人で作っている会社ではありません。
必要な材料が社内から集まり、根拠ある仮説に基づいて資金繰りの見通しが作られ、社長が経営判断に集中できる会社です。
もちろん、最終的な判断と責任は社長にあります。しかし、その前段階である材料集めや仮説づくりまで社長がすべて抱える必要はありません。
社員が財務の一部を担えるようになれば、社長はより重要な仕事に時間を使えるようになります。
資金繰り改善の実行。新規事業への投資判断。銀行との交渉。人材採用。組織づくり。将来に向けた戦略づくり。
こうした仕事こそ、社長が本来時間をかけるべき仕事です。
財務を社長一人で抱え込まないことは、単なる業務分担ではありません。会社を成長させるための人材育成であり、経営者の時間を取り戻すための仕組みづくりです。
経理担当者をいきなり財務責任者にする必要はありません。まずは、材料を集めるところから始める。次に、仮説を立てる力を育てる。そして、少しずつ対策を考えられる人材へ育てていく。
段階を踏めば、財務の仕事は必ず社内に根づいていきます。
社長が財務を手放せない会社から、社員と一緒に資金繰りを考えられる会社へ。
それが、中小企業が成長軌道に乗るための大切な一歩です。
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財務の一番大切な役割はお金の観点から会社経営に必要な判断材料をタイムリーに示すこと。言い換えれば、どうやったら会社がもっと儲かるかを示す材料を作るのが財務の役割です。
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