知恵の和ノート
中小企業の共同事業を成功させるには?経営資源の補完より大切なこと(第658話)
共同事業の成功は、足りない経営資源を補い合うだけでは実現しない。互いの強みを活かす「違い」と、価値観やビジョンを共有する「共通点」。この両輪が事業の成否を分ける。

中小企業が新規事業に挑戦する際、資金や人材、ノウハウなどの経営資源が不足していることは少なくありません。そこで選択肢となるのが、他社との共同事業や業務提携です。
共同事業では、自社に足りない経営資源を相手企業に補ってもらう「相互補完」が重視されがちです。しかし、お互いの強みを持ち寄るだけで、事業は本当に上手くいくのでしょうか。
実は、共同事業の成否を左右するのは、経営資源の組み合わせだけではありません。経営者同士の価値観や、事業を通じて実現したいビジョンが共有できているかどうかも重要なポイントです。
今回は、実際にご相談を受けた資金調達と新規事業の事例をもとに、中小企業が共同事業を成功させるために押さえておきたい視点について考えます。
「儲けたいなら、高く仕入れろ」から考える利益の生み出し方
「儲けたいなら、高く仕入れろ」
これは以前、某大手商社で役員を務めておられた方から教えていただいた言葉です。
商社では何億円という単位で商談をまとめることも珍しくありません。しかし、当時の私は「売上原価をできるだけ低く抑えることが利益を増やす基本」と考えていたため、この言葉は目から鱗でした。
なぜ、高く仕入れることが利益につながるのでしょうか。
粗利率が高くても、粗利額が大きいとは限らない
例えば、1万円で仕入れた商品を2万円で販売できれば、粗利は1万円、粗利率は50%です。
一方、100万円で仕入れた商品を150万円で販売した場合、粗利は50万円、粗利率は約33%になります。
粗利率だけを比較すれば、前者の方が優れています。しかし、後者と同じ50万円の粗利を稼ぐためには、前者の商品を50個販売する必要があります。
もちろん、商品によって販売の難易度や必要な経費、在庫リスクなどは異なります。また、高く仕入れれば必ず高く売れるというわけでもありません。
それでも、利益を考える際には、粗利率だけでなく、実際にいくらの粗利を確保できるかという視点も欠かせません。
「儲けたいなら、高く仕入れろ」という言葉には、取引金額の大きさだけでなく、利益を生み出す機会をどのように捉えるかという意味も含まれていると考えています。
新規事業の資金調達には融資と出資以外の選択肢もある
高額な商品を仕入れたり、大きな事業に挑戦したりするには、当然ながら相応の資金が必要です。
手元資金が豊富にあれば問題ありませんが、そうでなければ何らかの方法で資金を確保しなければなりません。
中小企業の経営者が新規事業の資金調達を考える際、まず思いつくのは銀行融資や投資家からの出資ではないでしょうか。
銀行融資は過去の実績や財務状況が壁になる
銀行から融資を受けることができれば、不足する資金を補えます。
しかし、銀行は融資の審査において、過去の実績や財務状況、返済能力などを重視します。
新たに高額な商品を仕入れて販売する事業であれば、その事業計画にどの程度の実現可能性があるのかが問われます。
仮に将来性を上手く説明できたとしても、過去の業績や財務状況が悪ければ、「しばらく様子を見ましょう」という判断になることもあります。
つまり、事業そのものに可能性があっても、融資を受けられるとは限らないのです。
投資家からの出資には経営権の問題もある
一方、投資家からの出資であれば、銀行融資よりも将来の成長性を重視してもらえる可能性があります。
ただし、投資家は出資に見合うリターンを期待します。一般的に、融資よりも高い投資収益率を求められることが多いでしょう。
また、株式による出資を受け入れる場合、持株比率や議決権の問題も発生します。
出資金額や条件によっては、経営の自由度に影響が及ぶ可能性もあるため、オーナー経営者としては慎重にならざるを得ません。
では、融資も出資も難しい場合、新規事業を諦めるしかないのでしょうか。
私は、必ずしもそうではないと考えています。
中小企業の共同事業は資金不足を補う選択肢になる
先日、ある経営者から新規事業に関するご相談を受けました。
事業の内容は非常に興味深いものでしたが、実現するには相応の資金が必要でした。銀行融資も投資家からの出資も、現状では少し難しそうです。
そこで、いろいろと可能性を検討した結果、社長が親しくしている別の経営者を巻き込んだ共同事業のスキームをベースに考えてみることになりました。
資金を借りるのではなく、一緒に事業を行う
経営者は、日頃から新たな事業チャンスを探しています。しかし、他社から融資や出資を求められた場合、資金の提供そのものが目的になるため、必ずしも関心を示すとは限りません。
一方、自分も一定の資金や人材、ノウハウなどの経営資源を提供し、共同で事業を行って利益を上げるという話であれば、見方が変わります。それは単なる資金提供ではなく、自社にとっての事業投資になるからです。
もちろん、共同事業であれば必ず資金不足を解消できるわけではありません。それでも、自社だけでは実現が難しい事業でも、他社と経営資源を持ち寄ることによって、実現の可能性が広がります。
共同事業を検討する際に確認したい3つのポイント
共同事業を検討する際、まず押さえておきたいのは、事業そのものの採算性です。
具体的には、次の3点が重要になります。
- 採算は取れる案件なのか
- 初期投資はどのくらいの期間で回収できるのか
- 想定されるリスクはどの程度あるのか
どれほど魅力的な事業でも、利益が出る見込みがなければ継続は難しくなります。
また、利益が出るとしても、初期投資の回収までに長い時間がかかれば、その間の資金繰りを考えなければなりません。
さらに、売上が計画を下回った場合や、想定外の費用が発生した場合に、どこまで対応できるのかも重要です。
共同事業だからといって、こうした基本的な事業判断を省略することはできません。
共同事業のパートナー選びで重要なのは価値観の一致
事業の採算性やリスクを確認した上で、次に考えるべきなのがパートナーとの相性です。
共同事業では、自社に不足している経営資源を持っている相手を選びたくなります。
しかし、それだけでパートナーを決めてしまうと、思わぬ問題が起こる可能性があります。
経営者同士の考え方が異なると共同事業は難しい
パートナーを選ぶ際には、次のような点を確認する必要があります。
- 本当に信頼できる相手なのか
- その事業を通じて実現したいことは何か
- 自社との相性は合うのか
例えば、冒頭の「儲けたいなら、高く仕入れろ」という考え方についても、経営者によって受け止め方が異なります。多少のリスクを負ってでも、大きな利益を狙いたいという経営者もいれば、リスクを極力抑え、着実に利益を積み上げたいという経営者もいます。
どちらが正しいという話ではありません。
ただし、前者の考え方を持つ経営者が、後者の考え方を持つ経営者に共同事業を提案しても、なかなか話が進まないことがあります。たとえ資金力や事業ノウハウの面で理想的な相手であっても、リスクに対する考え方が大きく異なれば、重要な局面で意見が対立する可能性があるからです。
実際の経営相談で共同事業を提案した理由
今回ご相談いただいた社長と、その社長が親しくしている経営者は、お二人とも「儲けたいなら、高く仕入れろ」という考え方に共感するタイプでした。
一方、経営資源の面では違いがありました。
ご相談いただいた社長は、新規事業に必要な資金の確保に苦労されていました。それに対して、親しくしている経営者の方は、資金的にかなり余裕がありそうでした。
つまり、事業に対する考え方には共通する部分があり、経営資源には異なる部分があったのです。そこで私は、お二人がそれぞれの経営資源を持ち寄って共同事業を行うというスキームをご提案しました。
もちろん、この方法が必ず上手くいくという保証はありません。具体的な事業計画を詰める必要がありますし、労力や費用の負担、利益の配分、意思決定の方法などについても、事前に十分な協議が必要です。
しかし、今回のご相談を通じて、共同事業を考える上で大切なことを改めて実感しました。
それは、「共通する部分」と「共通しない部分」の両方に目を向けることです。
共同事業を成功させるには「共通点」と「相互補完」の両方が必要
一般的に、共同事業や業務提携では、お互いの強みを活かして弱みを補う「相互補完」が重視されます。
例えば、営業力はあるけれど商品開発力が弱い会社と、商品開発力はあるけれど販売網が不足している会社が組めば、双方にメリットが生まれる可能性があります。
しかし、私はそれだけでは不十分だと考えています。
共通しない部分は経営資源の相互補完につながる
中小企業には、資金、人材、技術、ノウハウ、販売網など、経営資源に限りがあります。そのため、自社に足りないものをすべて自社だけで補おうとすると、時間もお金もかかります。場合によっては、準備を進めている間に事業チャンスを逃してしまうかもしれません。
一方、他社と共同事業を行えば、自社にはない経営資源を活用できる可能性があります。つまり、お互いの「共通しない部分」は、共同事業を通じて新たな価値を生み出す源泉になるのです。
共通する部分は共同事業を継続する土台になる
経営資源の相互補完ができていても、経営者同士の価値観や目指す方向性が大きく異なれば、共同事業は難しくなります。
例えば、一方は短期間で大きな利益を上げたいと考え、もう一方は時間をかけて事業を育てたいと考えている場合、投資や利益配分の判断で意見が分かれる可能性があります。
また、一方は新たな挑戦を積極的に進めたいのに、もう一方は慎重な判断を重視する場合、事業を進めるスピードにも違いが生まれます。
こうした違いがすべて悪いわけではありません。しかし、仕事に対する考え方や事業を通じて実現したいビジョンなど、根本的な部分で共通するものがなければ、問題が起きるたびに意見の調整が必要になります。
共同事業を成功させるには、共通しない経営資源を補い合うだけでなく、共通する価値観やビジョンを土台にすることが重要なのです。
中小企業こそ共同事業を成長戦略の選択肢に
近年、大手企業でも生き残りや成長をかけて、さまざまな業務提携や共同事業が行われています。
中小企業にとっても、他社とのコラボレーションは成長戦略の選択肢の一つになります。
ただし、相手が大手企業だから安心というわけではありません。交渉力や情報量に大きな差があれば、自社に不利な条件を受け入れてしまう可能性があります。
また、相手が同じ中小企業の場合、財務状況や資金繰りを十分に確認せずに事業を始めると、思わぬ形で共倒れになるリスクもあります。
だからこそ、共同事業を検討する際には、相手の経営資源だけでなく、財務状況や事業に対する考え方まで確認することが大切です。そして、事業を始める前に、双方の役割や責任、費用負担、利益配分などを明確にしておく必要があります。
もちろん、共同事業にはリスクもあります。しかし、自社に不足する経営資源をすべて自社だけで補おうとすれば、多くの時間と資金が必要です。
その間に、本来つかめたはずの事業チャンスを逃す可能性もあります。
大切なのは、他社と組むこと自体を目的にするのではなく、何を実現するために、誰と、どのような形で組むのかを明確にすることです。
共同事業や業務提携を検討する際、相手との「共通しない部分」ばかりに目を向けていないでしょうか。
経営資源は互いに補完できるか。
そして、価値観やビジョンは共有できるか。
この二つの視点を持ってパートナーを選ぶことが、中小企業の共同事業を成功に近づける重要なポイントではないでしょうか。
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