知恵の和ノート
なぜ社員は社長の指示を断るのか?「これやって」では人が動かない時代の仕事の頼み方(第655話)
社長の指示だから従う時代ではない。目的、背景、効果を丁寧に伝え、「言われたからやる」から「納得して動く」会社へ変えていく。

社員に新しい仕事を頼んだところ、「やりません」「無理です」「やりたくありません」と断られた。そんな経験を持つ中小企業経営者は、決して少なくありません。
かつては「上司や会社の指示には従うもの」という考え方が一般的でした。しかし、働く人の価値観が変化した今、社長が「これをやって」と指示するだけでは、社員が納得して動くとは限りません。
とはいえ、社員が指示に従わない原因を、すべて本人の姿勢や意欲の問題として片づけるのも早計です。経営者の指示の出し方や、仕事の目的・背景・期待する効果が十分に伝わっていないケースもあります。
では、社員が「それならやります」と納得して動くために、経営者は何を、どこまで伝える必要があるのでしょうか。
今回は、社員に仕事を依頼する際に押さえておきたい「仕事の頼み方」について考えます。
昔は「上司の言うことは絶対」だった
「支店長の言うことは絶対だから」
社会人になって1年目の頃、先輩からこのように教わりました。
ここでいう「言うこと」には、仕事上の指示だけでなく、それ以外のことも含まれます。
例えば、支店長から「これから飲みにいくぞ」と声を掛けられたら、私たち若手社員に拒否権はありませんでした(笑)。
なぜなら、
「支店長の機嫌を損なえば、人事評価に影響する」
「人事評価が悪くなれば、その後の出世にも響く」
という考え方が、当時はそれなりに共有されていたからです。
そんな時代を経験してきた私からすると、
「上司に飲み会へ誘われても断る」
「会社から頼まれた仕事でも、やりたくなければ断る」
という昨今の若手社員を見ると、「羨ましいなぁ」と思うことがあります。
社員が社長の指示を断るのはなぜか
一方で、経営者の立場になると、事情は少し変わります。
飲み会への参加を断られるくらいなら、特に問題はありません。
しかし、会社をさらに良くするために必要だと考えて、新しい仕事をお願いした時に、
「やりません」
「無理です」
「やりたくありません」
と断られると、経営者としてはガッカリします。
実際、クライアントさんからも、「社員に新しい仕事を依頼したら、断られました」という相談を受けることがあります。
では、社員が社長の指示に従わない場合、社員側に問題があるのでしょうか。
必ずしも、そうとは限りません。
社長の指示にも「理にかなったもの」と「そうでないもの」がある
たとえ経営者である社長からの指示であっても、
- 理にかなった指示
- 理にかなっていない指示
があります。
もし社長が普段から、理にかなわない指示ばかり出していたらどうでしょうか。
たまに本当に必要な仕事を頼んでも、「また社長の思いつきでしょ」と社員に受け取られてしまう可能性があります。
例えば、社長が直感だけを頼りに、思いついたことを次々に社員へ指示しているケースです。
経営環境が変わっているにもかかわらず、十分な検討もせずに仕事を増やしていれば、社員から見れば、「また余計な仕事が増えた」という印象になります。
その結果、本当に会社に必要な仕事を依頼した時まで、「どうせ、また思いつきでしょう」と足元を見られてしまうかもしれません。
「理にかなった指示」でも社員が動かない理由
一方、普段から理にかなった指示を出しているにもかかわらず、社員がその指示に従わないケースもあります。
この場合に考えたいのが、
「理にかなっている」の「理」は、本当に社長と社員の間で共有されているのか
という点です。
社長と社員では「仕事をする意味」が違って見える
例えば、社長は新しい仕事を依頼する際、次のように考えているかもしれません。
この仕事をやる→会社の業績が良くなる→利益が増える→社員にも賞与などで還元できる
あるいは、
この仕事を経験する→社員本人の成長につながる→できる仕事が増える→昇給や昇格につながる
つまり、社長から見れば、「会社にとっても社員にとってもプラスになる仕事だから、やるのが合理的だ」と考えているわけです。
しかし、社員からはまったく違って見えていることがあります。
例えば、
- この仕事をやっても会社の業績は良くならない
- 単に余計な仕事が増えるだけ
- 自分の成長にはつながらない
- 時間ばかり取られてコスパ、タイパが悪い
と捉えているかもしれません。
同じ仕事を見ていても、
- 社長には「意味のある仕事」
- 社員には「余計な仕事」
と映っている。
ここに、社長と社員の認識のズレがあります。
「会社のために頑張れば報われる」が通用しにくくなった
私が新入社員だった頃は、
「会社の指示に従って一生懸命頑張れば、昇給や昇格につながる」
「会社が成長すれば、自分の将来も明るくなる」
という、ある意味で楽観的かつ単純な考え方が、今より強くありました。
だから、上司から仕事を頼まれれば、「とりあえずやってみよう」となりやすかったのです。
しかし、今は状況が違います。
会社が頑張ったからといって、必ず成果につながるわけではありません。むしろ、経営判断や打ち手を間違えれば、一気に業績が悪化することもあります。
そのため、
「会社が言っているから正しい」
「社長が言っているから間違いない」
と無条件に受け入れるのではなく、
「それって、本当にそうなのか?」
「その仕事をやる意味は何なのか?」
と、懐疑的に考える人も増えています。
これは、必ずしも悪いことではありません。だからこそ、経営者側の仕事の頼み方も変えていく必要があります。
「これやって」だけでは社員は動かない
これから社員に新しい仕事を依頼する際には、単に「これやって」と伝えるだけでは不十分です。
少なくとも、
- なぜ、この仕事をやるのか
- どのような背景があるのか
- どんな効果を想定しているのか
- 会社にとって、どんなメリットがあるのか
- 社員本人にとって、どんな意味があるのか
まで伝える必要があります。
仕事の「内容」ではなく「意味」まで伝える
経営者からすれば、仕事を依頼した時点で、「なぜ必要なのかは分かるだろう」と思ってしまいがちです。しかし、社員は経営者と同じ情報を持っているとは限りません。
社長には見えている経営課題が、社員には見えていないこともあります。社長には分かっている将来のリスクを、社員は知らないこともあります。
そうであれば、「何をやるか」だけを伝えても、その仕事の必要性は理解できません。
社員に納得して動いてもらいたいのであれば、「何のためにやるのか」まで伝える必要があります。
社員の反応が変わった「仕事の頼み方」
先日、ある会社で打ち合わせをしていた時のことです。
社長が、「これを社員に頼んでも大丈夫かなぁ」と心配されていました。新しい仕事をお願いした際、社員から反発されるのではないかと気にされていたのです。
そこで私は、「代わりに私が説明しましょうか」と提案しました。
そして、その仕事について、
- なぜ今やる必要があるのか
- 会社にどんな効果があるのか
- 今後どのような状態を目指しているのか
といった背景を説明した上で、「ちょっと面倒臭いけれど、やってくれませんか?」とある社員にお願いしました。
すると、その社員から返ってきたのは、「会社がさらに良くなるなら、やります!」という力強い言葉でした。
やる仕事そのものが変わったわけではありません。
変わったのは、「なぜ、その仕事をやるのか」を説明したことです。
社員が指示に従わない時、経営者が先に確認すべきこと
もちろん、丁寧に説明すれば、すべての社員が必ず仕事を引き受けるわけではありません。
会社として必要な仕事であり、その目的や背景、期待する効果について十分に説明している。それでも、「やりたくないからやりません」という姿勢を続けるのであれば、会社とその社員との関係を見直す必要があります。
会社に貢献する意思がないのであれば、遅かれ早かれ退職してもらった方が、お互いのためになるケースもあるでしょう。
ただし、そう判断する前に、会社側にも確認しておくべきことがあります。
- 社長の指示は一貫しているか
- 思いつきで仕事を増やしていないか
- 仕事の目的を伝えているか
- 期待する効果を説明しているか
- 社員にとっての意味まで考えているか
こうしたことを十分に行った上で初めて、
「社員側の問題なのか」
「会社側に改善すべき点があるのか」
を切り分けることができます。
人が動くかどうかは「指示」より「納得」で決まる
「昔の社員は言われたことをやったのに、最近の社員は言うことを聞かない」
そう感じる経営者もおられるかもしれません。
しかし、社員が変わったのであれば、経営者の伝え方も変える必要があります。
かつてのように、「社長が言っているのだからやりなさい」だけで人を動かすのは難しくなっています。だからこそ、これから経営者に求められるのは、「指示に従わせる力」ではなく、「仕事の意味を伝え、納得して動いてもらう力」です。
社員が仕事を断った時、すぐに「最近の社員はダメだ」と結論づけるのではなく、
「なぜ、この仕事をやる必要があるのかを、私はきちんと説明しただろうか」
と自分自身に問いかけてみる。
社員が動かない原因を社員だけに求めず、経営者自身の指示の出し方や仕事の頼み方も振り返る。
その積み重ねが、「言われたからやる会社」から「納得して動く会社」へ変わっていく第一歩ではないでしょうか。
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