知恵の和ノート
「良い人が来ない」と嘆く社長へ|採用を変えるのは人探しより仕事の仕組み(第659話)
「良い人が来れば何とかなる」という期待は、宝くじが当たるのを待つのと同じだ。偶然の出会いに頼るのではなく、誰が来ても仕事が回る仕組みを整えることが経営者の仕事である。

「求人を出しても応募がない」「人材紹介会社に依頼しても、良い人が見つからない」
人手不足が続く中、人材採用に苦労している中小企業は少なくありません。しかし、採用がうまくいかない原因は、本当に人手不足だけなのでしょうか。
過去の経験から採用条件を厳しく設定したり、即戦力となる人材を求めすぎたりすることで、会社自ら採用の可能性を狭めているケースもあります。
大切なのは、「どんな人に来てほしいか」を考える前に、「どんな仕事を任せたいか」を明確にし、その仕事が円滑に進む仕組みを整えることです。
今回は、実際の経営相談での事例をもとに、中小企業が見直すべき採用条件と、人材採用を改善するための仕事の仕組みづくりについて考えます。
中小企業が人材採用で苦戦する理由とは?
採用条件を厳しくするほど候補者が減る
中途社員を採用する際、多くの会社では次のような条件を設定します。
- 経験の有無
- 性別
- 年齢
例えば、
「業界経験がある人が望ましい」
「男性の方が仕事を頼みやすい」
「若い人の方が素直である」
といった考え方です。
もちろん、採用にあたって求める人物像を明確にすること自体は大切です。しかし、これらの条件を厳しく設定しすぎると、そもそも応募できる人が限られてしまいます。
特に人手不足が続く現在、経験者で、男性で、年齢は40歳以下といった条件を重ねれば、候補者が見つからない可能性は高くなります。
また、性別や年齢を基準にした判断は、仕事に必要な能力を適切に見極められないだけでなく、採用に関する法令上の問題にもつながりかねません。
大切なのは、その条件が本当に業務上必要なのかを見極めることです。
人材紹介会社から候補者が来ない理由
先日、あるクライアントさんとの打ち合わせで、次のような相談がありました。
「人材紹介会社に募集を依頼しているが、なかなか候補者を紹介してもらえない」
詳しく話を伺うと、業界経験は必須条件にしていなかったものの、性別や年齢については希望する条件を設定していました。
そこで、募集している仕事内容を確認した上で、次のように質問しました。
「本当にその条件は必須ですか?」
改めて検討していただいた結果、一部の条件を緩和することになりました。
もちろん、条件を緩和したからといって、すぐに良い人材が採用できるとは限りません。しかし、採用条件を見直すことで、それまで候補者として検討していなかった人にも目を向けられるようになります。
採用がうまくいかない時、人材紹介会社の問題や人手不足という外部環境だけに原因を求めるのではなく、自社の採用条件にも目を向ける必要があります。
採用の思い込みが人材確保の可能性を狭める
過去の失敗経験が採用の判断基準になる
なぜ、会社は採用条件にこだわるのでしょうか。
その背景には、過去の採用や人材育成で経験した失敗が影響していることがあります。
例えば、
- 未経験者を採用したが、仕事を覚えられなかった
- 女性社員に仕事を頼んだら、嫌な顔をされた
- 男性社員に事務仕事を任せたら、ミスが多かった
- 高齢者を採用したが、文句ばかりで働かなかった
といった経験です。
こうした経験をすると、
「未経験者は即戦力にならない」
「女性には頼みにくい仕事がある」
「男性は細かい作業が苦手だ」
「年齢が高い人は扱いにくい」
という判断につながりがちです。
しかし、一人の社員との経験が、同じ属性を持つ人すべてに当てはまるわけではありません。
アンコンシャスバイアスが採用に与える影響
人は無意識のうちに、「AならBだ」と決めつけてしまうことがあります。これは、アンコンシャスバイアス(無意識の思い込み)と呼ばれるものです。
例えば、未経験者が仕事を覚えられなかった場合、その原因は本当に本人の経験不足だけだったのでしょうか。
会社に業務マニュアルがなく、仕事を教える仕組みが整っていなかったことも考えられます。
また、仕事を頼んだ時に嫌な顔をした社員が女性だったからといって、女性全般が同じ反応をするわけではありません。男性でも仕事を嫌がる人はいますし、女性でも事務作業でミスが多い人はいます。
年齢についても同様です。高齢でも意欲と能力を持ち、会社に大きく貢献している人はいます。
つまり、採用で大切なのは、過去の一部の経験から判断するのではなく、目の前の仕事に必要な能力や適性を見極めることです。
経営者自身が持つ思い込みに気づくことが、人材採用を見直す第一歩になります。
人材採用を改善するには「人」より「仕事」を先に考える
「どんな人が欲しいか」より「どんな仕事を任せたいか」
採用活動を始める際、多くの経営者は、「こういう人に来てほしい」という希望を持っています。それ自体は自然なことです。
しかし、希望する条件を満たす人材がなかなか見つからない場合は、発想を変える必要があります。
まず考えるべきなのは、「どんな人に来てほしいか」ではなく、「どんな仕事をやってほしいか」ということです。
例えば、事務作業を担当する社員を採用する場合、業界経験や年齢よりも、必要なPCスキルや正確に作業を進める能力の方が重要かもしれません。
また、営業職であっても、すべての業務に豊富な営業経験が必要とは限りません。
新規開拓、既存顧客への対応、見積書の作成など、仕事内容を細かく分ければ、未経験者でも担当できる業務が見つかる可能性があります。
求める人物像から考えるのではなく、必要な仕事から採用条件を考える。
この順番に変えるだけでも、採用の選択肢は広がります。
会社が提供できる条件を明確にする
もう一つ重要なのは、採用する側の姿勢です。
「こういう条件の人に来てほしい」という会社側の希望だけを伝えるのではなく、「こういう条件を整えているので、ウチの仕事を手伝ってほしい」という考え方に変えることです。
もちろん、給与や勤務時間、休日などの労働条件は重要です。しかし、それだけでは他社との違いが伝わりにくくなります。
例えば、
- 仕事のマニュアルがある→担当する業務が明確で、仕事を覚えやすい
- 原則出社だが、週2日はリモートワークも可能→柔軟な働き方ができる
- PCスキルは必要だが、年齢による制限は設けない→年齢よりも実務能力を重視している
- 業務に必要な資格取得を会社が支援する→経験だけでなく、学ぶ意欲も大切にしている
といったことです。
これらは一例ですが、会社がどのような環境を整えているかを具体的に示すことで、応募者は入社後の働き方をイメージしやすくなります。
採用条件は、会社が応募者を選ぶための基準であると同時に、応募者に会社の魅力や価値観を伝えるメッセージでもあります。
採用できる会社になるために必要な仕事の仕組みづくり
人を変える前に仕事の進め方を整える
採用の問題を考える時、忘れてはならないことがあります。
それは、採用した人材が能力を発揮できる環境を会社が整えているか、ということです。
仮に優秀な人材を採用できたとしても、
- 仕事内容や役割分担が曖昧である
- 仕事の進め方が担当者任せになっている
- 業務マニュアルがなく、教える人によって説明が違う
- 問題が起きた時の判断基準が明確になっていない
という状況では、期待した成果につながらない可能性があります。
逆に、仕事の内容や手順が明確になっていれば、経験の浅い人でも一定の成果を上げやすくなります。
大切なのは、採用する人材に多くを求める前に、会社として何ができるかを考えることです。
「人を管理するのではなく、仕事を管理する」という考え方に基づき、誰が担当しても仕事が円滑に進む仕組みを整えることが必要です。
良い人材が来なくても仕事が回る会社を目指す
中小企業では、社員一人ひとりの能力や経験に依存して仕事が進んでいるケースが少なくありません。そのため、優秀な社員が退職すると、業務が滞ったり、残された社員の負担が急増したりします。
この問題を解決するには、採用活動だけでなく、日頃の仕事の進め方を見直すことが重要です。
例えば、
- 担当者ごとの仕事内容を明確にする
- 特定の社員しかできない仕事を減らす
- 業務マニュアルや判断基準を整備する
- 仕事の優先順位を明確にする
- 新しく入った社員が仕事を覚えやすい環境をつくる
といった取り組みです。
これらは採用活動の改善だけでなく、既存社員の負担軽減や業務効率の向上にもつながります。
また、仕事の仕組みが整っていれば、採用する人材に求める経験や能力の条件を見直せる可能性もあります。
人材採用と仕事の仕組みづくりは、別々の課題ではないのです。
人手不足の時代こそ、経営者は採用の発想を変えよう
「誰か良い人が来てくれたら、会社の問題が解決する」
そう期待する経営者は少なくありません。
しかし、それはある意味、「宝くじに当たったら、会社の資金繰りが楽になる」と期待するのと同じです。
もちろん、良い人材との出会いは会社にとって大きな財産です。けれども、偶然の出会いだけに期待していては、経営を安定させることはできません。
人手不足の時代に中小企業が取り組むべきことは、単に採用条件を緩和することではありません。
重要なのは、次の3つです。
- 過去の経験による思い込みに引きずられないこと
- 「どんな人に来てほしいか」よりも「どんな仕事をやってほしいか」を明確にすること
- 人に依存するのではなく、仕事が円滑に進む仕組みを整えること
採用できない理由を人手不足だけに求めるのではなく、自社の仕事の進め方や受け入れ体制にも目を向ける。
それが、採用の可能性を広げるだけでなく、会社の経営基盤を強くすることにもつながります。
「良い人が来てくれたら」と期待する前に、「良い人が来なくても仕事がちゃんと回るにはどうしたら良いか」を考える。
人材採用に悩んでいる中小企業の経営者こそ、まずはそこから始めてみてはいかがでしょうか。
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社員からの質問が減らない原因は、手順不足ではなく判断基準の共有不足にある。マニュアルは、社長の考えを現場に届ける道具である。
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