知恵の和ノート

2026/08/04

「走りながら考える」の前に仮説を立てよ|新規事業を成功に導く事業設計(第648話)

カテゴリー :ビジネスモデル

「走りながら考える」とは、行き当たりばったりで進むことではない。採算、将来の内製化、全体最適の仮説を立て、検証と修正を重ねながら前進しよう。

新規事業で失敗しないための3つの判断基準

新規事業を始める際、「まずは動いて、走りながら考えよう」と判断する経営者は少なくありません。特に、経営資源が限られている中小企業では、自社だけで人材やノウハウをそろえるのが難しく、ECプラットフォームや営業代行、外部パートナーなど、社外の力を活用することも必要です。

しかし、社外との連携によって売上が伸びても、手数料や外注費が増え、想定した利益が残らないケースがあります。また、協力先ごとの成果を追求した結果、部分最適に陥り、新規事業全体の採算が悪化することもあります。

だからこそ、「走りながら考える」前に、自社なりの仮説を立てておくことが重要です。取引採算は見込めるのか、将来的に内製化するのか、誰が事業全体をコントロールするのか。

本記事では、中小企業が社外の協力を得ながら新規事業を進める際に欠かせない、事業設計の3つの視点を解説します。

 

新規事業では社外の協力が必要になる

新しい商品やサービスを売り出す際、企画から販売まで、すべてを自社で完結できれば理想的です。外部に支払う費用が少なくなるため、売上に対して確保できる利益も大きくなる可能性があります。

しかし、実際には、自社だけでは不足する人材やノウハウ、販売網を補うために、社外の協力を得なければ新規事業を進められないケースも少なくありません。

 

特に中小企業は、使える人材や資金、時間が限られています。

  • 社員を育ててから始める。
  • 必要なノウハウを身につけてから取り組む。
  • 社内の体制が整ってから本格的に動く。

このように考えているうちに、他社が先に市場へ参入し、いざ自社が動こうとしたときには、すでに市場での立ち位置を確保されていることもあります。

 

そのため、新規事業を進める際には、社外も含めて「誰が、何を、どうするのか」を決め、小さくても早く始めることが重要です。

ただし、社外の力を借りれば、それだけで新規事業が成功するわけではありません。外部の協力を得る際には、売上だけでなく、利益や将来の事業運営まで見据えた事業設計が必要です。

 

社外連携で売上が伸びても利益が残るとは限らない

 

ECプラットフォームの活用には費用がかかる

分かりやすい例が、インターネット販売です。

自社サイトだけで販売する場合と、楽天市場やAmazonなどのECプラットフォームを利用する場合では、売上と利益の構造が異なります。

 

インターネット販売のノウハウや集客力を自社で蓄積できていれば、自社サイトを中心に販売した方が、販売手数料などの負担を抑えられます。その結果、売上だけでなく、利益も確保しやすくなります。

一方、自社に十分な集客力や運営ノウハウがない場合、ECプラットフォームを利用することで、販売機会を増やせる可能性があります。ただし、出店料や販売手数料、広告費、決済手数料などが発生します。

 

そのため、売上は伸びても、利益は思ったほど増えないことがあります。

売上高だけを見て「新規事業は順調だ」と判断すると、後になって資金が残らない事態にもなりかねません。

 

外注費を含めた取引採算を事前に検証する

新規事業を始める際には、単に「いくら売れそうか」を考えるだけでは不十分です。社外の協力を得ることで発生する費用を含めて、取引採算を検証する必要があります。

 

例えば、次のような費用が想定されます。

  • ECプラットフォームの出店料や販売手数料
  • 営業代行会社に支払う固定費や成功報酬
  • 広告会社や制作会社に支払う外注費
  • 物流会社に支払う保管料や配送費
  • システム会社に支払う導入費や利用料

 

こうした費用を差し引いた後に、会社として必要な利益が残るのかを確認しなければなりません。新規事業では、売上目標だけでなく、粗利益や営業利益、資金回収まで含めて考えることが大切です。

 

新規事業で確認すべき3つの判断基準

社外の協力を得て新規事業を進める場合、少なくとも次の3つを確認する必要があります。

  1. 利益を含めた取引採算の見込みを立てる
  2. 将来的な展望を視野に入れる
  3. 事業全体の最適化を図る

この3つを事前に考えておくことで、社外の力を生かしながら、自社が主導権を持って新規事業を進めやすくなります。

 

判断基準1:利益を含めた取引採算の見込みを立てる

 

売上ではなく利益が残る仕組みを考える

新規事業の計画を立てる際、多くの経営者が最初に考えるのは売上です。

  • どれだけ販売できるか。
  • 何社と契約できるか。
  • 何人の顧客を獲得できるか。

 

もちろん、売上の見込みを立てることは必要です。しかし、売上が増えたとしても、それ以上に手数料や外注費が増えれば、会社には利益が残りません。

そのため、売上高だけでなく、利益率や1件あたりの利益、固定費を回収するまでに必要な販売数も確認しておく必要があります。

 

取引採算には社内の負担も含める

社外に支払う費用だけでなく、社内で発生する負担も無視できません。

例えば、営業代行会社が獲得した商談に、自社の社員が毎回対応する場合、その社員の時間も事業コストの一部です。問い合わせ対応や見積書の作成、社内調整、納品後のフォローに多くの時間がかかれば、表面上は黒字でも、実質的には採算が取れていないことがあります。

新規事業の取引採算を考える際には、外部へ支払う費用だけでなく、社内で使う時間や人件費も含めて検証することが重要です。

 

判断基準2:将来的な内製化を視野に入れる

 

社外への依存を続けるのかを決める

当初は社外の協力を得るとしても、その体制を将来も続けるのか、いずれは自社で内製化するのかによって、日々の行動は大きく変わります。

外部の協力先に業務を任せ続けるのであれば、長期的に安定した関係を築く必要があります。

一方、将来的に内製化を目指すのであれば、外部に任せている間にも、社内でノウハウを蓄積しなければなりません。

単に作業を外注するだけでは、自社に知識や経験が残らない可能性があります。その結果、いつまでも外部に依存し続け、外注費を削減できない状態になることもあります。

 

協力先の方針と自社の展望をすり合わせる

社外の協力先にも、それぞれの事業方針があります。

将来的な内製化を前提に、ノウハウの移管まで支援してくれる会社もあります。一方、継続的に自社のサービスを利用してもらうことを前提に、支援を提供している会社もあります。

 

どちらが正しいという話ではありません。

重要なのは、自社が長期的にどのような体制を目指すのかを明確にし、その方針に合った協力先を選ぶことです。

  • 自社は将来、何を社内に残したいのか。
  • どの業務を外部に任せ続けるのか。
  • どのノウハウを社員に身につけてもらうのか。

こうした将来像を考えておくことで、新規事業を進めながら、会社に必要な経営資源を蓄積できます。

 

判断基準3:部分最適ではなく全体最適を図る

 

協力先と自社では利益の出るポイントが異なる

新規事業全体をコントロールする主体は、あくまで事業を行う会社です。しかし、社外の協力先にも、自社の売上を伸ばし、利益を確保したいという事情があります。

そのため、協力先から提案される内容が、必ずしも自社の新規事業全体にとって最善とは限りません。

 

例えば、商談が決まるごとに成功報酬が発生する営業代行サービスを利用するケースを考えてみます。

営業代行会社は、商談数が増えるほど売上が伸びます。そのため、自社の商品やサービスへの関心が低い相手にもアプローチし、商談の数を増やそうとすることがあるかもしれません。

 

商談数の増加が受注増加につながるとは限らない

商談の数が増えれば、それだけ受注の可能性が高まるように見えます。しかし、質の低い商談が増えると、自社の社員が対応に追われる一方で、受注にはつながらないという状況が生まれます。

営業代行会社に支払う費用は増える。

自社の営業担当者の時間も使われる。

それでも新規受注は増えない。

このような状態では、営業代行会社にとっては商談数が増えていても、自社の新規事業全体としては最適化されていません。

営業代行会社に悪意がなくても、それぞれが自社の成果指標だけを追いかければ、部分最適に陥る可能性があります。

 

新規事業全体の成果指標を会社が決める

全体最適を図るには、会社が新規事業全体の成果指標を決める必要があります。

  • 商談数だけでなく、受注率や1件あたりの利益、顧客獲得費用、継続率なども確認する。
  • 売上だけでなく、外注費や社内の対応時間も含めて採算を見る。
  • 協力先ごとの成果だけでなく、新規事業全体として利益が残っているかを確認する。

こうした視点を持つことで、社外の協力先に振り回されず、自社が主体となって新規事業を進められます。

 

「走りながら考える」ためにも仮説が必要

 

仮説があれば結果を検証できる

新規事業では、事前に立てた見込み通りに進まないこともあります。

  • 想定したほど売れない。
  • 予想以上に外注費がかかる。
  • 内製化を進めようとしても、社員の育成に時間がかかる。
  • 関係先が増えるほど、全体最適を図るための調整も複雑になる。

 

だからといって、事前に考えることに意味がないわけではありません。

仮説を立てて取り組めば、実際の結果と比較できます。

  • どの見込みが合っていたのか。
  • どの前提が間違っていたのか。
  • どこを修正すれば利益が残るのか。

このような検証ができるため、途中で得られる気づきの量と質が高まります。

 

仮説がなければ単なる行き当たりばったりになる

「走りながら考える」という言葉は、何も考えずに始めることではありません。

  1. まず仮説を立てる。
  2. 小さく始める。
  3. 結果を確認する。
  4. 必要に応じて修正する。

この繰り返しが、新規事業を前進させます。

 

仮説がなければ、うまくいかなかったときに、何が原因だったのかを判断できません。その結果、同じ失敗を繰り返したり、協力先を変えるだけで根本的な改善が進まなかったりします。

新規事業に必要なのは、完璧な計画ではありません。現時点で考えられる仮説を持ち、検証しながら事業設計を更新していく姿勢です。

 

社外の力を借りながら新規事業の主導権を握る

経営資源が限られている中小企業にとって、社外の協力を得ることは、新規事業を早く始めるための有効な方法です。

自社だけですべてを抱え込む必要はありません。

 

一方で、社外に任せたからといって、新規事業全体の設計まで任せてはいけません。

  1. 利益を含めた取引採算の見込みを立てる。
  2. 将来的な内製化や事業体制を考える。
  3. 協力先ごとの部分最適ではなく、新規事業全体の最適化を図る。

この3つを押さえたうえで、「誰が、何を、どうするのか」を決め、小さく始めることが重要です。

 

見込み通りに進まなければ、仮説を修正すればよいのです。大切なのは、何の仮説も持たずに動くのではなく、自社なりの事業設計を持って一歩を踏み出すことです。

「走りながら考える」を成功につなげるためにも、まずは経営者自身が、新規事業に関する仮説を立てるところから始めましょう。

 

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