知恵の和ノート
「こんなはずではなかった」を防ぐ|経営者が知っておきたい顧客の期待値コントロール(第651話)
期待値コントロールは営業担当者だけの仕事ではない。顧客の思い込みや契約後のズレまで見据え、会社全体で認識を合わせ続けることが重要だ。

新規顧客を獲得するためには、自社の商品やサービスに期待を持ってもらう必要があります。しかし、その期待が大きくなりすぎると、契約後に「こんなはずではなかった」「聞いていた話と違う」といった不満やクレームにつながります。
そこで重要になるのが、顧客の「期待値コントロール」です。
営業担当者が商品のメリットだけを強調しすぎないことはもちろんですが、注意しなければならないのは、会社側が正しく説明していても、顧客自身が勝手に期待を膨らませているケースがあることです。
また、顧客の過剰な期待は、契約前には見えず、実際に取引を始めてから分かることもあります。
つまり、期待値コントロールは営業担当者だけの問題ではありません。契約前から契約後まで、会社全体で取り組むべき顧客対応の重要なテーマです。
今回は、顧客の期待値がなぜ高くなるのか、どのような相手に注意すべきなのか、そして契約後のトラブルやクレームを防ぐために会社として何をすべきかについて考えます。
顧客の期待値が高すぎると、契約後のトラブルにつながる
お客様が商品やサービスを購入するのは、支払う価格以上の価値があると感じるからです。言い換えれば、「価格<価値」と判断した時に、購入や契約へ進みます。
そして、その「価値」を判断する際に大きな影響を与えるのが、商品やサービスに対する期待値です。
そのため営業担当者は、商談の中で
「この商品を使うと、このような効果が期待できます」
「このサービスを導入すると、このような課題を解決できます」
と説明します。
もちろん、ある程度期待値を高めなければ、契約にはつながりません。しかし、ここで期待値を上げすぎると問題が起こります。
購入後や契約後に、
「思っていたほど効果がなかった」
「聞いていた話と違う」
「こんなはずではなかった」
という不満につながるからです。
新規受注では、期待を持ってもらうことと、期待を膨らませすぎないことの両方が求められます。
このバランスを取ることが、期待値コントロールの基本です。
営業のオーバーコミットがクレームの原因になる
営業担当者にとって、契約を取ることは重要な仕事です。
そのため、悪気はなくても、商談を前に進めることを優先するあまり、
「おそらく大丈夫です」
「そこまで問題にはならないと思います」
「たぶん対応できます」
といった形で、実際に提供できる範囲以上の期待を持たせてしまうことがあります。
いわゆるオーバーコミットです。
また、契約を取りたい気持ちが強いほど、商品の制約条件や注意事項の説明を省略してしまうケースもあります。
たとえば、ある商品について一定の効果が確認されていたとしても、使い方や使用環境によって効果が制限されることがあります。
仮に、「気温40度以上では、想定されている効果を十分に発揮しない場合があります」という条件があるとします。
この説明をしないまま販売すると、お客様が想定外の環境で商品を使用した際に、
使い方や環境が条件に合っていない→期待していた効果が出ない→この商品は役に立たない→話が違う
という流れになりかねません。
実際には商品の性能そのものに問題がなくても、事前説明が不足していたことで顧客トラブルが発生するのです。
商品説明のルール化で期待値はコントロールできる
このようなトラブルについては、会社側で対策できます。
たとえば、
「この条件では効果が制限される可能性があります」
「この用途については保証の対象外です」
「この機能を使うには別の環境が必要です」
といった注意事項を、営業担当者が必ず説明するルールにすることです。
営業担当者個人の判断に任せるのではなく、会社として説明すべき内容を明確にしておく。
そうすれば、
「営業担当者によって説明が違う」
「そんな話は聞いていない」
という問題も減らせます。
期待値コントロールは、営業担当者の話し方だけではなく、営業プロセスを仕組み化することでも改善できます。
会社が説明していても、顧客が勝手に期待値を上げることがある
しかし、期待値コントロールが難しいのは、会社側がきちんと説明していてもトラブルが起こることです。なぜなら、お客様自身が勝手に期待値を高めているケースがあるからです。
会社としては、
「そこまでできますとは言っていない」
「その機能について保証したことはない」
にもかかわらず、お客様の中では、
「当然、ここまでやってくれるだろう」
「これだけお金を払うのだから、この問題も解決してくれるはずだ」
と話が膨らんでいることがあります。
つまり、期待値は会社が作るものだけではありません。顧客自身が、自分の中で作り上げるものでもあるのです。
過剰な期待を抱きやすい顧客の3つのサイン
私が実際の商談や仕事を通じて注意しているのは、次のような傾向がある相手です。
1つ目は、人の説明をあまり聞かない人。
こちらが条件や注意事項を説明していても、自分が聞きたい部分だけを聞き、
「それなら、これもできるだろう」
「あれにも使えるかもしれない」
と、自分の中で想像を膨らませます。
2つ目は、仕事を丸投げする傾向が強い人。
「専門家に頼むのだから、全部やってくれるだろう」
「これだけ費用を払うのだから、問題を解決してくれるのは当然だ」
と考えている場合、会社が想定しているサービス範囲と、お客様が期待している範囲に差が生じやすくなります。
3つ目は、価格だけを基準に強い値引き交渉をする人です。
もちろん、値引き交渉をする人すべてに問題があるわけではありません。
ただ、価格については厳しく交渉する一方で、
「これくらいはやってもらえるだろう」
「当然、ここまで対応してもらえるだろう」
と提供内容には高い期待を持っているケースがあります。
このように、
- 人の説明に耳を傾けない
- 仕事を丸投げする
- 提供範囲を確認せず高い成果を期待する
といった傾向が見られる場合は、通常以上に丁寧な期待値コントロールが必要です。
顧客トラブルを防ぐには「売らない」という判断も必要
期待値をコントロールする方法は、説明を増やすことだけではありません。
場合によっては、「このお客様には自社の商品やサービスを売らない」という判断も有効です。
特に、商談の段階で、
- こちらの説明をほとんど聞かない
- 都合の悪い条件を受け入れない
- 「これくらい当然やってくれるでしょう」という要求が多い
といった傾向が明確な場合、受注した後に大きなトラブルへ発展する可能性があります。
売上を増やしたい時ほど、
「せっかく問い合わせがあったのだから」
「ここまで商談したのだから」
「今月の売上が足りないから」
という理由で、無理に契約したくなるものです。
しかし、売上が増えても、その後の対応に想定以上の時間がかかったり、社員が疲弊したり、クレーム対応に追われたりすれば、会社全体としては利益を失います。
すべてのお客様と契約する必要はありません。
期待値を適切にコントロールできない相手とは、あえて取引しない。これも経営判断の一つです。
顧客の期待値はホームページやSNSでも高くなる
さらに注意したいのが、会社から直接説明していない情報によって、顧客の期待値が上がるケースです。
ある会社では、お客様が契約前にホームページを詳しく読み、SNSでの発信も熱心にチェックしていました。
その結果、「この会社に頼めば、すぐにウチの問題も解決してくれる」という期待を抱いていたことが、取引開始後に分かりました。
会社側は、そこまで約束していません。
しかし、お客様はホームページやSNSに掲載された情報から、自分なりの解釈を加えて期待値を高めていたのです。
成功事例を「自社でも再現できる」と思い込む顧客に注意する
会社が集客のために、お客様の声やケーススタディを掲載することは一般的です。
たとえば、「売上が3ヵ月で2倍になりました」という成功事例を掲載することもあるでしょう。
しかし、実際の成果には、さまざまな要因があります。
会社が提供した商品やサービスが良かったことに加えて、
- お客様自身が努力した
- 新しい施策を積極的に実行した
- 市場環境が追い風になった
- 良いタイミングが重なった
といった要素が成果につながっているケースもあります。
また、守秘義務の関係から、成功に至ったすべての事情をホームページ上に掲載できるわけではありません。
ところが、情報を文脈ではなく一部分だけで捉える人は、「この会社に頼めば、ウチも3ヵ月で売上が2倍になる」と考えることがあります。
会社としては一つの事例を紹介しただけなのに、お客様の中では、それが自社に対する「約束」に近い形へ変換されているのです。
これは、営業担当者がオーバーコミットしていなくても起こります。
期待値コントロールは契約後も続ける必要がある
ここまで考えると、顧客の期待値コントロールは契約前だけの仕事ではないことが分かります。
商談時には特に問題がなかった相手でも、実際に取引を始めることで、
「思っていたよりも期待が高い」
「契約内容以上のことを求めている」
「こちらが当然やると思っている仕事がある」
と分かることがあります。
その際、「もう契約したのだから仕方がない」と放置してはいけません。むしろ、期待値のズレに気づいた段階で、早めに修正する必要があります。
たとえば、
- 今回の契約で対応する範囲
- 対応しない範囲
- 会社側が担当すること
- お客様自身にやってもらうこと
- 期待できる成果
- 成果を保証できない部分
などを改めて確認します。
最初は多少言いづらくても、期待値のズレを放置するほど、後で大きな問題になります。契約後にも期待値を調整することが、長期的な顧客関係を守ることにつながります。
期待値コントロールを営業だけの仕事にしてはいけない
顧客の期待値が低すぎれば、そもそも契約には至りません。一方で、高すぎれば、契約後の不満やクレームにつながります。
だからこそ、適切な期待値を作ることが重要です。ただし、その役割を営業担当者だけに任せるのは危険です。
実際の取引が始まれば、
- バックオフィス
- 商品提供部門
- カスタマーサービス
- 経理
- 経営者
など、さまざまな人がお客様と関わります。
その中で、
「このお客様は少し期待が高すぎるのではないか」
「契約内容と違う要求が増えている」
「営業時の説明と認識がズレている」
という兆候に気づくことがあります。
その情報を社内で共有し、必要に応じてお客様と認識を合わせることが重要です。
営業と事務方の対立では顧客トラブルは防げない
期待値に関する問題が起きると、
「営業が勝手に約束したからだ」
「事務方が融通を利かせないからだ」
と、社内で責任の押し付け合いになることがあります。
しかし、それでは同じ問題が繰り返されます。
重要なのは、「誰が悪かったのか」ではなく、なぜ期待値にズレが生じたのかを確認することです。
- 営業時の説明に問題があったのであれば、説明方法を改善する。
- 契約書や資料が分かりにくかったのであれば、表現を見直す。
- お客様自身が期待を膨らませているのであれば、契約後のコミュニケーションを増やす。
- そして、同じ問題が起きないように会社として対応方法を共有する。
期待値コントロールは、一人の営業担当者の技量ではなく、会社の仕組みとして取り組むべきテーマです。
「こんなはずではなかった」を防ぐのは会社全体の仕事
営業では、お客様に期待を持ってもらうことが必要です。
しかし、期待値を高めれば高めるほど良いわけではありません。期待値が現実から離れれば、契約後に「こんなはずではなかった」という不満が生まれます。
しかも、その期待は営業担当者の説明だけで作られるものではありません。ホームページやSNS、お客様の思い込み、過去の成功事例などによっても膨らんでいきます。
だからこそ、期待値コントロールは契約前だけで終わらせないことが大切です。
契約後にも、
「お客様は何を期待しているのか」
「会社が提供すると考えている内容とズレていないか」
を確認する。
そして、ズレに気づいた社員がいれば、営業部門だけの問題にせず、会社全体で共有して対応する。
顧客トラブルを防ぐために必要なのは、期待させないことではありません。「何を期待してよいのか」を、お客様と会社の双方が正しく理解することです。
その積み重ねが、「話が違う」というトラブルを減らし、お客様との長期的な信頼関係につながるのではないでしょうか。
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