知恵の和ノート
社長がいなくても仕事が回る会社へ|属人化を減らす「引き継ぎ」の考え方(第650話)
「いつか誰かに引き継ぐ」と考えるだけで、仕事の見え方は変わります。今のやり方に固執せず、残すものと変えるものを見極めることが、会社の未来をつくります。

中小企業では、社長や特定の社員しか分からない仕事が増え、業務が属人化しているケースが少なくありません。普段は問題なく仕事が回っていても、担当者の退職や休職、事業承継などで引き継ぎが必要になった途端、会社が混乱することがあります。
だからといって、すべての仕事をマニュアル化し、今のやり方をそのまま次の人に引き継げばよいわけではありません。成果が出ている属人的な仕事でも、担当者が変われば同じ方法が通用しないことがあります。反対に、今まで上手くいかなかった仕事が、人が代わることで大きく改善することもあります。
大切なのは、「社長がいなくても仕事が回る会社」を目指して、現在の仕事を一度見える化し、何を残し、何を変え、何を次の人に託すのかを整理することです。
今回は、私自身の銀行員時代の引き継ぎ経験や中小企業の事例も踏まえながら、属人化を減らし、仕事をスムーズに引き継ぐために経営者が押さえておきたい考え方についてお伝えします。
仕事の引き継ぎを前提にすると、仕事のやり方は変わる
サラリーマン時代は、定期的に転勤や人事異動がありました。そのため、仕事をしている時も、「この仕事はいつか誰かに引き継ぐ」ということを常に意識していたように思います。
銀行の場合、取引先ごとに貸出申請書のファイルや取引先カードがあり、過去の取引記録や経緯は、それを見れば大半のことが分かるようになっていました。
転居を伴わない異動であれば、担当者の引き継ぎ期間は2〜3日程度が一般的でした。そのため、取引先への挨拶回りと直近のペンディング事項を確認した後は、「後は申請書ファイルをよく読んでおいて」という形で引き継ぎが終わることも珍しくありませんでした。
銀行という業種ならではの特殊性はありますが、振り返ってみると、「自分一人しか分からないことを極力なくす」という考え方は、かなり徹底されていたように思います。
中小企業ほど仕事が属人化しやすい理由
一方、中小企業では事情が異なります。
特に経営者は長年にわたって同じ仕事を続けることが多いため、事業承継の時期でもない限り、「この仕事を誰かに引き継ぐ」ということを、日常的にはあまり意識しないのではないでしょうか。
実際、私自身も起業して今年で20年になりますが、サラリーマン時代と比べると、誰かに仕事を引き継ぐことを意識する機会は減りました。
経営者にとっては、記録を残すことよりも、まず売上を上げることが優先されます。将来発生するかもしれないことよりも、今日や明日の仕事を優先せざるを得ない場面も少なくありません。
特に少人数で経営している会社では、そもそも仕事を引き継ぐ相手がいないため、
- 自分のやり方で仕事を進める
- 自分が分かりやすいように管理する
といった形になりがちです。
その結果、気づかないうちに「社長しか分からない仕事」が増えていきます。
マニュアルがあっても属人化はなくならない
例えば、毎週書いているこのブログも、原稿を書いた後、ホームページに掲載するまでにいくつかの手順があります。
ホームページ制作会社が作成した簡単なマニュアルはあります。しかし、実際に投稿する際には、そこに書かれていない、自分なりに工夫している作業もあります。その手順は私の頭の中には入っていますが、細かく記録には残していません。
つまり、マニュアルが存在していても、実際の業務のすべてが見える化されているとは限らないということです。
こうした状態が長く続くと、いざ経営者が仕事をできなくなった時や、誰かに仕事を引き継ぐ必要が生じた時に、会社が一時的に混乱する可能性があります。
仕事の引き継ぎは4つのレベルに分けて考える
一口に「仕事を引き継ぐ」と言っても、すべての仕事を同じように扱うべきではありません。
現在の仕事を整理すると、大きく次の4つに分けられます。
- 誰がやっても同じようにできる仕事
- ある人が属人的に行い、成果が出ている仕事
- ある人が属人的に行っているが、成果が出ていない仕事
- やろうとしているが、まだ実現できていない仕事
誰がやっても同じ仕事は仕組みで引き継ぐ
汎用的なシステムの操作方法など、誰がやってもほぼ同じようにできる仕事は、比較的引き継ぎが容易です。既に世の中に共通の操作方法があり、調べれば分かるものであれば、社内で細かく記録を残さなくても対応できる場合があります。
もちろん、会社独自のルールがある部分は整理する必要があります。ただし、こうした仕事については、基本的にはマニュアルやチェックリストなど、仕組みとして残すことで引き継ぎやすくなります。
成果が出ている属人的な仕事は、そのまま引き継がない
難しいのは、ある人が属人的に行っていて、成果が出ている仕事です。
成果が出ていると、「このやり方をそのまま次の人にもやってもらおう」と考えたくなります。
しかし、必ずしもそれが正解とは限りません。なぜなら、その人の性格や経験、得意分野、人間関係などがあって初めて成果につながっているケースがあるからです。
先日も、後継者候補を交えた打ち合わせの中で、社長から、「この営業スタイルはマネしなくて良いよ」というご発言がありました。
たとえ親子であっても、性格や得意・不得意は違います。先代社長が長年かけて磨いてきた営業方法で成果が出ていたとしても、後継者がまったく同じように実践できるとは限りません。
むしろ、その人に合わない方法を無理に引き継ぐことで、成果が出にくくなる可能性もあります。
引き継ぐべきは「やり方」より「目的」
ここで重要なのは、「どのようにやっていたか」だけを引き継ぐのではなく、
「なぜその仕事をやっていたのか」
「何を実現しようとしていたのか」
まで整理しておくことです。
引き継ぐ相手が目的を理解できれば、その人なりの方法で成果を出せる可能性があります。仕事の引き継ぎでは、過去のやり方を保存することよりも、目的や判断基準を伝えることの方が重要なケースも多いのです。
成果が出ていない仕事も、すぐにやめるとは限らない
一方、属人的にやっているものの、なかなか成果が出ていない仕事もあります。
この場合、「成果が出ていないのだから、引き継がずにやめよう」と判断することもできます。ただ、必ずしもそれが最善とは限りません。
同じ仕事でも、担当する人が代わることで、視点や進め方が変わり、上手くいくケースがあるからです。
これまでの担当者には向いていなかったやり方でも、別の人なら得意分野を活かして改善できる可能性があります。
そのため、属人的な仕事については、一度現在のやり方を明確にしたうえで、
- 今のやり方が本当に良いのか
- 別のやり方はないのか
- そもそも続ける必要があるのか
を改めて考えることが重要です。
今のやり方をすぐに肯定する必要もなければ、すぐに否定する必要もありません。引き継ぎは、仕事を見直す絶好の機会でもあります。
まだ実現できていない仕事こそ、後継者と語り合う
そして、もう一つ大切なのが、「やろうとしているけれど、まだできていないこと」です。
これは、単純に仕事を引き継ぐというよりも、次の人とよく話し合うべきテーマです。特に会社のビジョンや、将来実現したい事業などは、短期間で形になるものではありません。
また、経営者本人が、「まだ自分にはできていない」と思っていることであっても、次の人の経験や知識を使えば、意外と早く実現できる場合があります。
AIによって引き継ぎ後の仕事が大きく変わることもある
実際、あるクライアント企業では、これまで経営者が丸一日かけて行っていた仕事がありました。ところが、新しく入社した社員がAIを活用したところ、10分少々でできるようになりました。
仕事を引き継ぐ際には、「これまでどのくらい時間がかかっていたか」だけを基準に考える必要はありません。AIなど新しい技術を使えば、仕事のやり方そのものが大きく変わる可能性があります。
だからこそ、引き継ぎでは、「今のやり方をどう残すか」だけではなく、「もっと良いやり方はないか」という視点を持つことが重要です。
社長がいなくても仕事が回る会社は、仕事を定期的に見直している
仕事は、いつか誰かに引き継ぐものです。そう考えるだけでも、普段の仕事の見え方は変わります。
- 自分しか分からない仕事は何か。
- 誰かに任せても問題ない仕事は何か。
- 今のやり方を残すべき仕事は何か。
- やり方を変えた方が良い仕事は何か。
- まだ実現できていないことは何か。
こうしたことを定期的に整理しておけば、いざ引き継ぎが必要になった時の混乱を減らすことができます。
そして、それは事業承継のためだけではありません。経営者が体調を崩した時、長期で会社を離れる時、社員に仕事を任せる時、新しい人材が入った時などにも役立ちます。
「社長がいなくても仕事が回る会社」をつくるためには、すべてをマニュアル化する必要はありません。
大切なのは、今の仕事を見える化し、
- 何を仕組みにするのか
- 何を人に合わせて変えるのか
- 何を次の世代に託すのか
を考え続けることです。
私自身も、今取り組んでいる仕事について、「もし誰かに引き継ぐとしたら、どうするか」という視点を持ちながら、あらためて見直していきたいと思います。
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社員からの質問が減らない原因は、手順不足ではなく判断基準の共有不足にある。マニュアルは、社長の考えを現場に届ける道具である。
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