知恵の和ノート
経営判断で失敗しないために|「点」ではなく「構造」で考える経営者の思考法(第652話)
変化の激しい時代に、誰かの正解をそのまま信じるのは危険。自社なりの判断基準を持ち、結果を見ながらアップデートできる経営者こそ、迷わず軌道修正できる。

経営判断では、一つひとつの施策だけを見れば「正しい」と思えることでも、会社全体で考えると、必ずしも良い結果につながるとは限りません。
社員を増やせば売上が上がる。広告費を減らせば利益が増える。AIを活用すれば人件費を削減できる。こうした考え方は、一見すると合理的です。しかし、経営は複数の要素が相互に影響し合っています。そのため、一つの出来事を「点」だけで捉えると、思わぬところで歪みが生じることがあります。
変化が激しく、経営環境が複雑になっている今、経営者に求められるのは、個別の施策の正解を探すことではありません。売上、利益、人材、顧客、将来への影響まで含めて、モノゴトを「構造」として捉えることです。
そのためには、他社の成功事例や専門家の意見をそのまま採用するのではなく、自社なりの判断基準を持ち、その判断基準を環境の変化に合わせてアップデートしていく必要があります。
今回は、経営判断で失敗する確率を下げるために、なぜ「点」ではなく「構造」で考えることが重要なのかを考えてみます。
経営判断を「点」で考えると失敗しやすい
「社員をもう1人増やせば、もっと売上が上がる」
経営者と話をしていると、時々このような言葉を耳にします。
しかし、「もっと」というのが具体的にどのくらいなのかを質問すると、明確な答えが返ってこないことも少なくありません。
社員を1人増やせば、その分だけ人件費が増えます。さらに、採用広告費や紹介料などの採用コストもかかります。入社後には教育の時間や、管理する側の負担も増えるかもしれません。
つまり、「社員を増やす→売上が増える」という単純な関係ではありません。
売上が増えても、それ以上に人件費やその他のコストが増えれば、会社の利益は減る可能性さえあります。
「売上が増える」と「利益が増える」は同じではない
経営では、ある施策によって一つの数字が改善しても、会社全体の数字が良くなるとは限りません。
特に注意したいのが、
- 売上
- 利益
- 資金繰り
を同じものとして考えてしまうことです。
売上が増えても利益が減ることはあります。利益が出ていても資金繰りが苦しくなることもあります。
一つの数字だけを「点」で見て判断するのではなく、その施策が他の数字にどう影響するのかまで考える必要があります。
コスト削減も「点」で考えると逆効果になる
「広告費を減らして、赤字幅を減らしましょう」
もしかすると、銀行や外部の専門家から、このような提案を受けたことがある経営者もおられるかもしれません。
もちろん、無駄な経費を削減することは大切です。しかし、広告費を減らせば、必ず赤字が減るとは限りません。
広告費を削減したことで問い合わせが減る。問い合わせが減ったことで新規顧客が減る。その結果、売上が落ち、かえって赤字幅が拡大することもあります。
つまり、「広告費を減らす→経費が減る→利益が増える」とは限らないのです。
経費ではなく「経費が生み出しているもの」を見る
経費を削減する際に重要なのは、その金額だけを見ることではありません。
その経費が何を生み出しているのかを見ることです。
例えば広告費であれば、いくら使っているのかだけでなく、
- 何件の問い合わせにつながっているのか
- 何件の受注につながっているのか
- いくらの粗利益を生み出しているのか
まで確認する必要があります。
単純に「高いから削る」「赤字だから減らす」と判断すると、本来残すべき経費まで削ってしまう恐れがあります。
AI時代の人員削減も単純には考えられない
最近は海外企業の人員削減を見て、
「儲かっている企業が先を読んで、既に人を減らしている」
「アマゾンやメタはすごい」
と評価する声もあります。
今後、AIがさらに進化することを見越して、人員構成を見直すこと自体は合理的な経営判断でしょう。実際、AIの進化によって、これまで人が担ってきた単純作業や定型業務は減っていくと考えられます。
ただし、ここでも「AIが進化するから人を減らす」と単純に考えてしまうと、モノゴトを点で捉えることになります。
AI時代に必要なのは「人を減らすこと」ではない
AIが得意なのは、過去の事実やデータを整理し、組み合わせ、一定の答えを出すことです。
一方で、
- これから会社をどうしたいのか
- お客様にどんな価値を提供したいのか
- どの未来を選ぶのか
といった意思決定は、人が担う部分です。
また、AIを効果的に使うためには、
- 何をAIに任せるのか
- 何を人が考えるのか
- AIが出した答えをどう評価するのか
を判断できる人材が必要です。
人員削減を進める中で、単純作業を担う人だけでなく、AIを上手く活用できる人材まで流出してしまえば、短期的にはコストが減っても、長期的には競争力を失う可能性があります。
だからこそ、AI活用についても、目先の人件費だけではなく、将来の組織や事業への影響まで含めて考える必要があります。
複雑な時代ほど「成功事例のコピー」が危険になる
今は、さまざまなモノゴトが複雑に絡み合う時代です。だからこそ、一つの要素だけを切り取って判断すると、失敗する確率が高まります。
例えば、
- テンプレートをそのまま使う
- 他社の成功事例をそのまま真似る
- 有名な経営者や専門家の言葉を鵜呑みにする
といった行動です。
もちろん、テンプレートや成功事例を参考にすること自体が悪いわけではありません。問題は、「この会社で上手くいったから、自社でも上手くいくはずだ」と考えてしまうことです。
他社の正解が自社の正解とは限らない
会社ごとに、
- 商品やサービス
- 顧客
- 社員
- 資金力
- 組織体制
- 競合環境
- 経営者の価値観
は違います。
同じ施策を実行しても、結果が違うのは当然です。しかし、他社の成功事例だけを見ていると、その背景にある条件を見落としてしまいます。
結果だけを見れば「点」です。その結果が生まれた背景や条件まで見ることで、初めて「構造」として理解できます。
専門家の正解をそのまま採用してはいけない
特に注意したいのが、教える側の人の言葉です。
専門家やコンサルタントは、「自分の考え方は正しい」「この方法で上手くいった会社は多い」という経験を持っています。だからこそ、自信を持って、「こうすれば上手くいきますよ」とアドバイスします。
もちろん、そのアドバイスが役立つケースもたくさんあります。
しかし、その人が自社の事業内容や社員の状況、取引先との関係、資金繰り、経営者の考え方まで100%理解しているとは限りません。
論理的には正しいアドバイスでも、自社では上手くいかないことがあります。
正しいアドバイスも「自社用」に修正する
外部からのアドバイスを受ける際に大切なのは、正しいか、間違っているかだけで判断しないことです。
「自社の場合はどうか」という視点を必ず加える必要があります。場合によっては、専門家の提案を一度実行し、その結果を見ながら修正することも必要です。
つまり、答えをそのままもらうのではなく、自社に合わせて調整する力が経営者には求められます。
経営判断で重要なのは「自分なりの判断基準」
モノゴトを点ではなく構造で捉えて経営に活かすためには、二つのことが重要です。
- 自分なりの判断基準を持つこと。
- そして、その判断基準を常にアップデートすることです。
経営では、毎回ゼロから考えていては判断に時間がかかります。
だからこそ、
- 自社は何を大切にするのか
- 何を優先するのか
- どこまでならリスクを取るのか
- どの数字を重視するのか
といった判断基準を持っておく必要があります。
判断基準を変えることと、軸がないことは違う
ここで注意したいのは、判断基準をアップデートすることと、判断基準をコロコロ変えることは、似ているようでまったく違うということです。
前者には軸があります。自分なりの判断基準を持ったうえで、環境の変化や新しい情報を踏まえて修正します。
一方、後者には軸がありません。誰かに言われるたびに方針を変える。成功事例を見るたびに新しいことを始める。SNSやニュースを見るたびに不安になって判断を変える。これでは、経営判断をしているのではなく、他人の評価に振り回されているだけです。
「点」ではなく「構造」で考える経営者になる
経営では、一つの施策だけを見て正解かどうかを判断することはできません。
社員を増やせば、売上だけでなく人件費や教育負担も変わります。
広告費を減らせば、経費だけでなく問い合わせや売上にも影響します。
AIを導入すれば、人件費だけでなく仕事の進め方や必要な人材も変わります。
つまり、経営判断とは、一つの「点」を選ぶことではありません。その点が他の要素とどうつながっているのかを考えることです。
そのためにも、
- 自分なりの判断基準を持つ。
- その判断基準を環境の変化に合わせてアップデートする。
- そして、他人の正解をそのまま自社の正解にしない。
この姿勢が重要です。
一時的に判断を誤ることは、どの経営者にもあります。しかし、自分なりの軸を持っていれば、結果を見ながら軌道修正できます。
一方、他人の意見や成功事例に振り回されていると、判断を変えるたびに会社の方向性まで変わり、迷路に入り込んでしまいます。
複雑な時代だからこそ、経営者に必要なのは、簡単な正解を探すことではありません。モノゴトを点ではなく構造で捉え、自社なりの判断基準を持って考え続けることです。
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